2017年5月、米国人画家バスキアの絵画作品がニューヨークで競売にかけられ、ファッション通販サイト「ZOZOTOWN(ゾゾタウン)」を運営するゾゾの前澤友作社長が落札した。前澤氏は世界有数のアートコレクターだが、「好きなものを買って、みんなと共有して楽しんでいるだけ」という。その独特のコレクション哲学とは何なのか。東京芸術大学大学美術館の秋元雄史館長が聞いた――。
秋元雄史・東京芸術大学教授(左)と前澤友作・ZOZO社長(右)。前澤社長の私邸にて。(撮影=宇佐美雅浩)

バスキアを123億円で落札

【秋元】昨年サザビーズで落札されたバスキアは、123億円とうかがっています。飛び上がるような金額ですが、前澤さんは、あのバスキアの絵にはそれだけの価値があると認めた。バスキアに限らず美術品の価値は、金額とリンクしているとお考えでしょうか。

【前澤】はい。美術品のコレクターであれば、みなさんそうおっしゃるとおもいますよ。作品単体でみても素晴らしい作品は人気があって高く、そこに歴史や伝来などが加わればなおさらです。また、入手しにくければそれも値段が上がる要因になります。結局、価値のある美術品は、それに見合うだけの値段がつけられるのです。

【秋元】お金は美術品の正当な価値の指標であるというわけですね。

【前澤】それも、かなり洗練された指標になっています。資本主義社会では、なんでもそうではないですか。あらゆるモノやサービスの価値を表すのに最も適しているのは、やはりお金です。そういう意味では、お金というものは、本当にうまくできています。

ただし、モノが介在しなかったりレバレッジを利かせたりする金融資本主義的な世界は、やはり少しどこか狂っています。その世界に関して僕はあまり好きではありません。実体を伴わず、ただ“お金がすべて”という価値観は変えていきたいですね。

【秋元】美術の世界には、作品を投資対象としてみる金融資本主義社会の住人には、入ってきてほしくないですか。

【前澤】僕にはそれに関していう権利はありません。ただ、作品を買っても倉庫から一度も出さず、10年くらい経って市場価値が高まった頃に売却して「3億円儲かりました」などと言うのは、アートへの理解もなければアーティストへの敬意も欠けていると思う。僕自身はそうなりたくないと思っています。

アートは世界中の人と共有すべき

【秋元】バブルのころ、ゴッホの絵を手に入れたある日本の経営者が「自分が死んだらこの絵も棺桶に入れて一緒に焼いてくれ」と発言して物議を醸したことがありました。コレクターのひとりとしてそういった感情は理解できますか。

【前澤】とんでもない。購入した作品は自分のものというより、受け継がれていくべき人類の財産を一時期だけ所有させてもらっているというイメージです。だから、とてもそんなことはできないし、そうしたいとも思いません。素晴らしいアートは世界中の人と共有すべきです。アートにはコミュニケーションを促進し、みんなを笑顔にする力があります。僕はそんなアートの素晴らしさを多くの人に伝えていきたいのです。

【秋元】前澤さんは今年、フランス芸術文化勲章「オフィシエ」を受章されました。まさにそういった活動が認められたということですね。

【前澤】そんな大層なものを、僕なんかがもらってしまっていいのかなっていうのが率直な感想です。でも、まあ、ほめられて悪い気はしませんけどね(笑)