【秋元】これにより美術界の人間はみな前澤さんという存在に一気に注目しました。どれくらいのコレクションをもっているのかとか、どういう考えで美術品を集めているのかというのはもちろんですが、それだけではありません。美術史をみると、どの時代にも芸術を理解し、芸術家を支援し後援するパトロンがいて、大きな役割を果たしてきました。日本だと岡山県の大実業家である大原孫三郎さんやベネッセ創業者の福武總一郎さんがそうです。今後は前澤さんもパトロンとして美術界の発展に力を貸してくれるのではないかと、期待の目でみているのです。

【前澤】自分ではそんなたいそうな意識はないんですよね。申し訳ないです(笑)。アートだけを取り出して美学・美術史的に評価するようなことは得意ではないですし、文化の啓蒙だとか、社会のためなどといった大義名分が伴うような文化活動にも、あまり興味がないのです。

【秋元】私が15年間一緒に美術をやってきたベネッセの福武さんも、前澤さんと似ている点がありました。彼も、自分は慈善活動でやっているのではないとよくいっていました。他のコレクターと比べてどうのこうのというのもなかった。彼にとってコレクションは、自分の哲学の反映だったのだと思います。私は前澤さんに、美術界を応援してくれとはいいません。ただ、前澤さんの思想や哲学が前面に出るような関わり方を、今後も美術を通してしていってほしいと、切に願っています。

【前澤】がんばります(笑)。

友人と一緒にときどき「ぐい呑み」会を楽しむ。一口で「ちょっとした高級外車が買える金額」だという。(撮影=宇佐美雅浩)

アーティストってみんな変人ですから

【秋元】前澤さんはもともとミュージシャンで、バンド活動もされていました。それとアートのコレクションとは何か関係がありますか。

【前澤】特別に意識するようなことはないですね。しいて言うなら、アートも音楽も、そしてビジネスも、好きなことを徹底して突き詰めている、という点でしょうか。

【秋元】では、美術作品と向き合うときの気持ちのありようは、どんな感じなのでしょう。

【前澤】作品によっても違うし、日によっても違うと思いますよ。

【秋元】でも、気に入った作品の作家は追いかけるのですよね。いまだと誰ですか。

【前澤】アメリカでいえば、ロサンゼルスのマーク・グローチャンやジョナス・ウッドとか、最近だとマーク・ブラッドフォードとか。ジェフ・クーンズも好きなアーティストで、よく会ったりもします。あとジョー・ブラッドリー。ヨーロッパだとアントニー・ゴームリーとかアンセルム・キーファーとか。名前を挙げた人は全員スタジオまで会いにいきました。

【秋元】作品もそこで買うのですね。

【前澤】いいものがあれば。もちろん彼らの作品はオークションやセカンダリーマーケット(二次市場)でも買います。そこにこだわりはありません。