失速の理由5:「おとり商法」の反動

アマゾンは2017年にシアトルで3日間の会合を開き、無数の消費財ブランドに自分たちのプラットフォームを使うよう訴えた。「アマゾンを使って中抜きにしましょう! 消費者との直接の関係築きましょう!」。なんとすばらしい話だろう、とブランド各社はアマゾンに駆け寄っていった(歩み寄り程度の話ではなく)。それまで高潔な抵抗者であったナイキでさえ、「Just Do It!」とばかりにベゾスと組むことを選んだ。

しかし、ここに落とし穴がある。アマゾンは裏でプライベートブランドを立ち上げていたのだ。その数は100以上にものぼる。すでに市場に出ているものもあるが、ほとんどはまだ発表されておらず、カテゴリーはアパレル、食品、化粧品、家具など広範囲に及ぶ。

なぜアマゾンはプライベートブランドを準備しながら、他のブランドを積極的に招き入れているのか。自社ブランドをつくった末に彼らと競争しようというのか? 以下の2つの簡単な問いに答えればおのずとわかるだろう

●アマゾンで何か売れたとき、そのデータを手に入れるのはどこですか?
●最終的に顧客との関係を手にしているのはどこですか?

どちらの答えも「アマゾン」である。

そう考えると、アマゾンはブランド各社のデータを利用して、自社ブランドのカテゴリーや特定の製品の知識を完成させ、小売市場最大の「おとり作戦」を実行に移すだろう。最も人気のあるブランドの商品を探している消費者は、より費用対効果の高いアマゾンランドを選ぶことだろう。アマゾンのマージンを押し上げるために、絶え間なくプライベートブランドへの誘導は続けられるだろう。

しかし、長期的に見ると、ブランド各社はより敵対的でないパートナーを探してアマゾン王国から逃げていくだろう。人気ブランドがいなくなれば、アマゾンはアマゾンでなくなる。

アマゾンと組むときは「パラシュート」をお忘れなく

ジェフ・ベゾスが最初にウォルマートをお手本にしたのと同じように、彼らのような結末を迎えないために改めてウォルマートを参考にするかもしれない。アマゾンと取引をしているブランド各社はご注意されたい。アマゾンとビジネスを行うときは、よく周りを見て、パラシュートをつけてからにしてほしい。

いまや時価総額は1兆ドルを超えたアマゾンは、間違いなく100年に1社の会社であり、人類史上の最も大きく最も強力な企業の1つである。アマゾンにとってそれは最も大きな心配の種であり、アマゾンとビジネスをする企業にとってもまたそうである。

ダグ・スティーブンス(Doug Stephens)
小売コンサルタント
世界的に知られる小売コンサルタント。リテール・プロフェット社の創業社長。人口動態、テクノロジー、経済、消費者動向、メディアなどにおけるメガトレンドを踏まえた未来予測は、ウォルマート、グーグル、セールスフォース、ジョンソン&ジョンソン、ホームデポ、ディズニー、BMW、インテルなどのグローバルブランドに影響を与えている。著書に『小売再生』(プレジデント社)、The Retail Revival:Re-Imagining Business for the New Age of Consumerism(未訳)がある。
(初出=Business of Fashion、翻訳=プレジデント社書籍編集部 写真=iStock.com)
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