売れる仕組みをつくるにはどうすればいいのか。マーケティング戦略コンサルタントの永井孝尚氏は「仮説検証を高速回転させることが重要だ」という。その代表例がテレビ通販大手のジャパネットたかた。3年前、創業者の高田明氏が退任した後、同社は約8500点あった商品を600点に絞り込んだ。つまり93%の商品の扱いをやめた。その狙いはどこにあったのか。永井氏が高田旭人社長に聞いた――。(前編、全2回)

※本稿は、永井孝尚『売れる仕組みをどう作るか トルネード式仮説検証』(幻冬舎)の第3章「『成長パターン』企業の取り組み」を再編集したものです。

「100年後を考えると、これでは続かない」

テレビショッピングの「ジャパネットたかた」といえば、誰もが思い出すのが、あの独特な語り口の看板MC(語り手)・高田明氏だろう。しかし高田明氏はすでに退任し、番組には出演していない。

ジャパネットたかたは1986年に長崎県佐世保で創業。高田明社長の強力なリーダーシップで大企業に育った。2015年に明氏は退任し、現在は長男の旭人氏が社長をつとめている。16年度の売上高は1783億円、17年度の売上高は1929億円で成長を続けている。

それまでカリスマ創業者によるトップダウンだったので、社員は明氏に判断をゆだねることが多かったという。その跡を継いだ旭人社長は「100年後を考えるとこれでは続かない」と考え、社員一人一人が考え抜き、仮説検証する組織へと変革を続けている。

いかに今の組織を、一人一人が自ら考え、仮説検証する組織に変革するか? 悩んでいる会社やビジネスパーソンは多い。私は同社にそのヒントがあるのではないかと考え、変革を進める高田旭人社長にお話をうかがった。

ジャパネットたかたの高田旭人社長

仮説はザックリ、スピード重視

【高田旭人社長(以下、高田)】仮説検証で真っ先に思い出すのが、今年(2017年)の夏、エアコンがたくさん売れたことですね。従来は1カ月間の計画を立ててチラシを大量配布していました。販売結果を確認したら暑い日によく売れています。そこで現場と一緒に「暑い日にチラシをまく方法はないか?」と考えました。まず数日あれば、チラシを印刷して新聞で配布できるとわかりました。そこで気温の週間予想の結果を確認したら、ほぼ正確なんです。「暑い日にチラシをまけるじゃないか!」ということで、今年やってみたらすごくいい結果でした。みんなで喜びましたね。

──まさに仮説検証の成功パターンですね。

【高田】ビジネスの世界で仮説検証を厳密にやるのは、実は難しいですよね。〈ABテスト〉という仮説検証の方法があります。A案とB案で一つだけ異なるポイントを作って、両方実行して、どちらがいい結果かを検証するテストです。でも現実の販売では、異なるポイントはいくつもあって、どのポイントが効いたのかなんてわかりません。だから厳密なABテストをやろうとしてもムリなんです。

──厳密さを追求し始めると、時間もかかる一方です。

【高田】重要なのは時間です。厳密さはそれほど重要ではありません。だから社員には、「たぶんコレっぽいな、と考えたら、すぐやって、結果を見て、次の仮説を立てればいい」と言っています。でも日本人は真面目すぎなので余計な仕事をしている感じがします。

──大まかな方向を決めて即実行。スピードを重視しようということですね。

【高田】「原因は何か?」を追究するのに労力を使う人が多くてもったいないなと思います。以前読んだ『トヨタの口ぐせ』(OJTソリューションズ編著)という本に「巧遅よりも拙速」という言葉がありますが、「即実行」は常に意識しています。80点を100点にするのに労力をかけるより、80点を3回やって2勝1敗の方がいいですよね。