1716年の創業より、工芸品をベースにした雑貨の自社ブランドを確立し、全国に50以上の直営店を展開する中川政七商店。自社商品を企画・製造して売り場で展開するだけでなく、工芸ブランドの経営コンサルタントまで手がけているが、それで「儲け」を得るつもりはないという。なぜなのか。小売業の最新形態を紹介しよう——。

年間10社のブランディングを手掛ける

中川政七商店の店内に足を踏み入れると、創業のルーツである麻の衣料や小物以外にもさまざまな生活雑貨が陳列されているのが目に入る。一見するとセレクトショップのように見えるが、実は並んでいる商品のほとんどは同社が企画・製造したオリジナル商品。そしてコンサルティングした企業の商品も多く並んでいる。

もともと奈良の麻織物の問屋だった家業を継いだ第13代目社長の中川淳氏が「日本の工芸を元気にする!」というビジョンを掲げ、中川政七商店がコンサルティング事業に参入したのは2008年のことだった。特別な技術や柱となる商品がなかった中川政七商店が成長できたのは、地道な経営改善に加え、ブランドをつくり育てることによって商品が名指しで選んでもらえるようになったことが大きい。しかも再現性を重視してきた中川政七商店のブランディング戦略は、他の工芸メーカーにも通用するはずだという確信があった。

ダグ・スティーブンス(著)、斎藤栄一郎(翻訳)『小売再生 リアル店舗はメディアになる』(プレジデント社)

さらに、それまで自社の経営やブランディングだけに集中してきたが、年々縮小していく工芸業界の中で自分たちだけが成長しても、周辺産業が衰退してしまえばゆくゆくは自社のものづくりも難しくなるという危機感もあった。中川政七商店の流通チャネルを使えるという点も他のコンサルティング会社にはない強みだ。

せっかく新しい商品を開発しても、流通チャネルを持っていないために販売につながらず、努力が水の泡になってしまうケースは多々ある。しかし中川政七商店は現在、全国に50を超える直営店を持っており、つくってすぐに自分たちの店舗に並べることができる。ブランドづくりから販売までワンストップでサポートできる中川政商店のもとには次々と相談が舞い込み、波佐見焼のHASAMIをはじめとするヒットブランドを生み出した。

現在はコンサルティング専門のチームをつくり、年間約10社のコンサルティングを行っている。