「卒業」を前提として面倒を見る

写真提供=中川政七商店
KITTE内に構える東京本店では、コンサルティングを手がけたブランドの商品もずらりと並ぶ。

好調な中川政七商店のコンサルティング事業だが、全社戦略としてはあくまで投資という位置付けだと取締役の緒方恵氏は語る。

「私たちがコンサルティング事業を手がけているのは、あくまで工芸全体を盛り上げること、つまり工芸全体の流通総額を最大化させることが目的です。だからこそコンサルティングフィーは最低限の人件費程度に抑え、コンサル先の商品を自社店舗で仕入れて販売することでトータルの利益を増大させることを狙っています」

中川政七商店のコンサルティングのユニークさは、「卒業」を前提としている点にもある。コンサルティングの期間は、相談を受けてから半年~2年ほどが多く、終了後は「卒業」して独り立ちしていくのが通例だ。その地域で成功した企業が周囲の同業者に考え方の基本を教え、地域全体でナレッジを継承していくことも奨励している。こうした通常のコンサルティング企業からすると非常識ともいえる戦略は、彼らが自社の生活雑貨の企画・製造・販売事業という「本業」を持っているからこそなせる技だ。

「魅力的な工芸ブランドが増えて工芸業界自体が盛り上がっていけば、中川政七商店の商品や店舗を想起してもらう機会も増え、結果的に私たちの売り上げが増えるというサイクルをつくることができます。そのためにもコンサルティング事業単体で儲けようとするのではなく、『日本の工芸を元気にする!』というビジョンにのっとって各企業を支援し、私たちが介入せずとも日本全国からいい商品が生まれるための種まきと仕掛け及び仕組みをつくることが重要だと考えています」(緒方氏)

工芸活性化のためにまちを活性化させる

写真提供=中川政七商店
コンサルティング事例第1号となった有限会社マルヒロの波佐見焼ブランドHASAMI。

これまで工芸業界を中心にコンサルティングしてきた中川政七商店だが、最近では本拠地である奈良の活性化にも注力している。緒方氏は次のように語る。

「工芸のほとんどはその土地に根付いて発展してきたものです。体験の重要性が高まる今、モノの魅力だけではなくその商品が生まれた場所の魅力も高めなければお客様にきていただくことはできません。つまり、まち全体の活性化なくして工芸を活性化させることは難しいのです。そこでまずは私たち中川政七商店自身が本拠地である奈良を元気にすることで、まちの活性化を通して工芸業界、そしてそれぞれのブランドを盛り上げる事例をつくりたいと考えています」

約16年の間に、中川政七商店の事業は工芸のSPA化のみならず、工芸業界、奈良のまちづくりとゆっくりと広がっていった。モノも情報も溢れている今、一社のみでブランディングを考えるのではなく業界や地域といった「面」の連帯をつくることで注目を集め、結果的に各ブランドに人が集まるというサイクルをつくるという考え方がそこにはある。

中川政七商店がコンサルティングという異業種への参入で得たのは、単に別の稼ぎ口をつくるためではなく自分たちの属する「面」を活性化させることが自社コンテンツという「点」の利益につながるという健全なサイクルだ。