失速の理由3:「担当者」のメンタリティ

創業者主導の組織は、強力で、迅速で、破壊的である。往々にして彼らは深く共有され、頻繁に伝達されるミッションと目的意識によって成り立っている。権限委譲された現場が顧客との親密な関係を育む。アマゾンを小売業界の頂点まで押し上げたのは、まさにこの創業者主導の考え方だ。

ダグ・スティーブンス・著、斎藤栄一郎・訳『小売再生 リアル店舗はメディアになる』(プレジデント社)

しかし、創業者が組織を去ったり、あるいは組織があまりにも大きくなりすぎて創業者のエネルギーと存在が拡散し、ほとんど効力をもたなくなったりして、組織が創業者の推進力を失うと問題が発生する。ウォルマートはサム・ウォルトンという羅針盤を失ったとき、ウォルトンが唱えた価値観と顧客が高く評価した価値に反する決定を下した。

ベゾスは健康に(実際、エネルギーが有り余っているようにも)見えるが、より大きなリスクはアマゾンの日々の戦略と執行における彼の直接の関与と影響が、組織の規模のせいで、あるいは、商業宇宙旅行のような中核的ビジネスではないものへの情熱のために、減じられることだ。

創業者のメンタリティが担当者のメンタリティに置き換えられると、アマゾンは顧客第一主義を忘れ、革新性を失いかねない。かつてビジネスを改善することに向けられたエネルギーは、単に組織のインフラを維持するための業務に向けられるようになるだろう。

事業の最前線で行われていた決定が、顧客と離れた組織の真ん中で行われるようになれば、致命的な顧客ロイヤルティの喪失につながる。アマゾンはその使命感と目的意識を失い、競合他社が捉えやすい、ゆっくり動く大きなターゲットとなる。

失速の理由4:労働問題

1990年代には、アマゾンの経営幹部がストックオプションで大金持ちになり、人々の羨望の的となった。しかしいまやアマゾンの経営幹部の多くが、耐え難いプレッシャーと理不尽な勤務時間などによって、うつ病、不安、およびその他の精神的症状になやまされ、治療を必要としている。

倉庫の労働者が生産性が落ちると罰せられる恐れがあるため、トイレ休憩を取ることを控えるような有害な労働環境を明らかにする調査報告も次々と出てきている。さらに、アマゾンで働く人間は、より効率的かつ低コストで仕事を遂行するように訓練されているロボットの集団の中で仕事をしている。

過去のウォルマートのように、アマゾンは組合化を阻止するためにかなりの苦労をしていたが、これは不可避なことに対する予防措置に過ぎないのではないか。アマゾンの従業員の不満は、最終的にはアマゾンの顧客の不満につながるだろう。

あらゆる顧客サービス指標でトップクラスの会社にとっては、顧客満足度のわずかな低下も致命的となるおそれがある。