失速の理由1:組織的刷り込み

コダックはフィルムの販売に成功し、ブロックバスターはビデオのレンタルに成功し、タワーレコードはレコードの販売に成功したが、それぞれの成功は、同時に盲点も生んだ。極端な成功ゆえに明らかな市場、技術、消費者の変化を見落としてしまったのだ。

小売コンサルタントのダグ・スティーブンス

1960年代の社会学者、アーサー・L・スティンチクームの言葉を借りると、これは「組織的刷り込み」と呼ばれる。企業が最大の成功をおさめた時代の組織構造と戦略は、その後何年も、場合によっては何十年にもわたって「凍結」されてしまうのだ。

同様に、アマゾンの現在のビジネスモデルでの成功は、電子商取引における重要な社会的、経済的、技術的変化を見えにくくしている可能性がある。実際に、最近のインタビューでジェフ・ベゾスは次のように述べている。

「顧客は低価格を望んでいるのです。いまも、10年後もそれは変わらない。彼らは迅速な配送を望んでいます。充実した商品数も望んでいます」。

そのとおりかもしれないが、危険なのは、過去にアマゾンを成功させた要因が将来もアマゾンに成功をもたらすと信じることだ。

1990年代にウォルマートは、生活用品から食料品まで、膨大な商品をワンフロアに展開するスーパーセンター(SuC)で大成功し、オンラインコマースへの投資を減らしてSuCの増設に振り向けた。この戦略は失敗に終わり、同社はそれによる損失をまだ回復できていない。成功した組織は市場を見る角度を完全に変えないかぎり、危機や機会が視野に入ってこなくなる。

失速の理由2:楽しくない

アマゾンでの買い物体験が優雅で楽しいと言うのは、チェーンソーが優雅で楽しい機械だと言っているようなものだ。実際、アマゾンはチェーンソーに似ている。チェーンソーのように1つのことだけを行う目的でつくられているのだ。最大の品数のなかから比類なき利便性をもって最速の配送で消費者にものを届ける。探しているものがわかっていれば、すばらしい仕組みである。

問題は、わたしたち人間が買い物をするのは「モノを手に入れる」だけが目的ではない。少なくとも、常に「モノを手に入れる」のが目的ではない。われわれは新しいモノに出合うために買い物をし、友だちと楽しみ、自分を満足させるために買い物をする。

わたしたちは、ハンティングのようなスリルを味わうために買い物をする。狙ったものを見つけたときには、脳内物質のドーパミンが出て気持ちよくなる。アマゾンはこうした買い物の副次的な楽しみにはほとんど関心がないようだ。アマゾンでの買い物は、孤独で、静かで、心躍らない体験という点で、カタログショッピングがオンラインになったというだけだともいえる。

わたしは毎週のように、より没入型でインタラクティブで面白くてソーシャルなショッピングのアプリをつくることに取り組んでいる若いスタートアップの創業者と話す機会があるが。こうした企業が成功をおさめたとき、アマゾンは路線変更できない状態になっているかもしれない。