対人関係で悩んだときに、どんな解決策をとればいいのか。評論家の佐々木常夫氏と哲学者の岸見一郎氏。2人の達人に、5つの「場面別」でアドバイスを求めた。第2回は「上司に嫌われた」について――。(全5回)

※本稿は、「プレジデント」(2017年3月20日号)の掲載記事を再編集したものです。

【QUESTION】上司に嫌われた

佐々木の答え:「100%軍門に下る気持ち」で付き合う

自分を嫌った上司が、自分の味方になった

長い会社人生の中で、私を最も引き上げ出世させてくれたのは、当初は私をひどく嫌っていた上司でした。その人はとにかく気難しくてとっつきにくい。でも仕事は抜群にデキる人でしたから、文句のつけようがありません。その上司に嫌われていたのは、私が上司に対しても物怖じせずに直言するタイプだったから。要は仕事の流儀の違いです。

写真=iStock.com/TeoLazarev

嫌われているのは明らかでしたが、仕事で顔を合わせるわけですし、避けては通れない。私は腹をくくり、100%軍門に下る気持ちで付き合いました。定期的な業務報告はもちろん、徹底的にコミュニケーションを図り、上司が何を望んでいるのか把握するよう努めました。

こちらが必死になって食らいつき、上司の意に沿う働きぶりを見せれば、さすがに徐々に認めてもらえるようになります。とことん尽くして、やがて信頼してもらえるようになると、上司は昇進して異動する先々に私を呼び寄せてくれるようになった。そうやって、私は幸運にもキャリアの階段を上ることができたのです。

仕事関係に限りませんが、初めから万人に好かれようと願っても無理な話です。どうしたってウマの合わない人はいるし、なかにはより好みの激しい人もいる。でも私の経験では、そういう人に限って仕事となるとキレがあり、どんどん出世していったりするものです。だから、付き合いづらかったり、嫌われているなと感じたりする上司でも、絶対に疎かにしてはいけない。査定や異動も上司のさじ加減ひとつで決まるから、上司といかに付き合うかは会社員にとって最重要課題です。

嫌われないに越したことはありませんが、仮に1度嫌われてしまっても、ぶつかっていけば挽回も十分可能です。まずは「私のどんなところが悪いのでしょうか」と、嫌われている原因を探りましょう。「一緒に仕事をさせていただくのに、嫌われていたらやりにくいのです。教えてください」とバカ正直すぎるくらいで構わない。思い切って懐に飛び込み、真摯に向き合えば、何かしら突破口が開けてくるものです。

嫌われていることがわかっているのに何も対策を講じないと、後々ひどい目に遭います。上司に嫌われた場合、たとえ自分に落ち度があったとしても、いい気分ではありませんから、つい距離を置きたくなることもある。でも、それはあまりにも大きなリスクです。

まさにその失敗がもとで、出世コースから外された同僚がいました。非常に優秀な人でしたが、あるとき軽率な発言で上司の逆鱗に触れます。

本人としては他意はなく、多忙ゆえに少々ぞんざいな言葉遣いをしてしまっただけなのでしょう。ですが、たった1度の失言が命取りとなった。

やがてその上司は人事部長に昇格、社員の命運を握る立場になりました。

同僚は文句なしに優秀でしたから、部門長からの昇格申請が何度も人事部に出されたのですが、人事部長は権限を行使して、すべての昇格申請をことごとく握りつぶしたのです。

今の若い世代には「媚びるのは嫌」という人が増えています。上司にゴマをするなんて、みっともないし品もないと思っているようです。でも私はそうは思いません。そういう人は、何のために仕事をしているのか考え直してみるといい。究極的には自分のため、自分が幸せになるために汗水流して働いているはずです。そうだとすれば、仕事をうまく進めるために上司のご機嫌取りひとつもできない人は、要は自分の幸せを追求していないのだといえます。

「思い切って懐に飛び込めば、突破口は開ける」