※本稿は、「プレジデント」(2017年3月20日号)の掲載記事を再編集したものです。
【QUESTION】部下にバカにされた
佐々木の答え:尊敬されようと思うな、自然体で接すればいい
目下の者でも必ず、「さん」付けで呼んだ
私は入社以来20年間、企画や管理業務に従事した後、いきなり営業の課長に任命されました。着任前、私に対する悪い評判が聞こえてきた。新たに部下になる社員たちに「営業を何も知らない課長が来るらしい」とバカにする気持ちがあったのでしょう。そこで私は着任するなり部下たちにいった。「営業のことは皆さんのほうがよく知っているはず。教えてください」と。見栄を張って、わからないのにわかった振りをしたりしても、どうせ見透かされる。部下に頼るべきところは頼ったほうがいい。「部下に教えを請うのは恥ずかしい」とか、「上司たるものかくあるべし」と肩に力の入った態度こそがバカにされる。わからないことがあれば知っている人に聞くのは、仕事のうえでも当たり前です。
組織の中で朝から夕方まで毎日働いていれば、自分の人生観や価値観、生き様などが、毎日の仕事ぶりにすべて表れてしまいます。ちょっとやそっと取り繕っても、どうせ本性はバレます。それならいっそのこと、予断を持たずに自然体で振る舞うほうがいい。そうすれば案外バカにされることはありません。
そうはいっても、自然体とは何もしないことではありません。何の準備もしないで、ただ「教えてください」なんて、たとえ相手が部下であっても失礼です。私は着任する前、当時社内で「営業のプロ」とか「営業の神様」といわれていた5人の先輩社員にお願いし、事前に営業の心得を学ぼうと努めました。そのとき諸先輩方から教わった「心得」は、意外にも自分の前職とも共通する話が多かったのです。
お客さまとの約束は必ず守るとか、クレームが発生したら直ちに連絡するとか、基本的なことばかり。営業といっても、ビジネスパーソンとして大事にすべきことは何ら変わらない。未経験の部署であっても、それまで通りの通常の努力をすれば大丈夫だという確信を持って着任できたという背景もあります。そうした裏付けがあったからこそ、新しい上司を値踏みするような部下の前にいても自然体でいられた。実際、前職までの経験を生かし、営業でもしかるべき成果を出すことができました。
目下の人に教えを請うのが苦手な人は、人間関係を「上下」でとらえるクセがあるのでは。たとえ上司と部下といえども、上下関係だけで押し通そうとすると失敗する。「上から指示を出す」のではなく、対等な仲間として「いいアイデアがあればください」という姿勢で臨む必要があります。
私は30歳を過ぎた頃から、目下の人でも必ず「さん」付けで呼ぶようにしてきました。新入社員に対してもそうです。若い人でも私より優れたところがある。年を取っていても、私のほうが得意なこともある。それぞれに違う得意分野を持っているわけですから、業務で成果を挙げるには、相手をリスペクトして、強みを引き出してあげないといけない。
ずっと目下の部下からすれば、やはり「さん」付けで呼ばれると印象が違うようです。尊重してもらっている気持ちになるのか、実力以上の力を発揮してくれるようになる。
部下にバカにされていると感じたとしても、自分の思い込みということも多々ある。あまりに縦の関係に縛られるあまり、上司が過剰反応しているのです。裏を返せば「上司なんだから尊敬されて当然だ」という驕りともいえるでしょう。部下も対等な人間だと思っていれば、バカにされているなんて疑心暗鬼になることはないはずです。