つまり、時価総額のゲームで見劣りする日本で、自動運転の出遅れを取り戻したいトヨタと、革命を起こしたいソフトバンクの思惑が一致したのだ。

さて、トヨタとソフトバンクの提携発表の記者会見では2社ともに「ライドシェア会社」の海外のウーバー、ディディ、グラブにこれまで出資してきたことを再三強調した。

そもそもライドシェアとは、自家用車を「相乗り」、つまりシェアリングする仕組みのこと。一般の人が自分の空き時間を活用して移動したい人を運ぶ、アプリを使った決済、SNSによるドライバー評価のシステムなどがビジネス上の特性である。日本ではライドシェアの解禁を政府は「慎重に検討する」としているが、米国や中国では社会実装が進行しており、すでに米国では「タクシーよりもウーバー」が常識だ。ウーバーの企業価値は7兆円を超えているとも言われている。

ライドシェアサービスは、アプリでドライバーの経歴や評価を確認できることから、障害者にとっても安心できる交通手段となっている。単なる輸送サービスにとどまらない情緒的価値、精神的価値まで提供しているのだ。

このライドシェアが自動運転において重要であるのは、導入当初は必然的にコストが高い自動運転車を自家用として商業化するのは困難と見られていることがある。ライドシェア会社であれば多くの利用者を対象として稼働率を高めていくことで比較的早期に収益化可能であると考えられているからだ。また世界的に進展しているシェアリングの動きからも「自動車はシェアして利用するもの」という価値観が急速に定着してきている。

18年は世界的に最高気温の記録を更新した地域が相次いだ。環境保護の動きは、世界的な異常気象により、多くの人が身体感覚的に必要だと考える水準にまで高まってきた。エネルギーを化石燃料からクリーンエネルギーを中心に変革し、モノの利用ではシェアリングを進めるといった動きは、今後さらに拍車がかかると予想される。

ちなみに米国では、ライドシェア会社は「トランスポーテーション・ネットワーク・カンパニー」(TNC)と呼ばれている。自動車ライドシェアサービスを基点として、航空機、鉄道、地下鉄、バスなどのトランスポーテーション(輸送)の手段をすべてネットワーク化することが期待されている。

将来的にはライドシェアの対象範囲には、自動運転車のみならずオートバイや自転車なども含まれてくるだろう。むしろ、シェア自転車といった小さな乗り物からおさえ、そこから飛行機・鉄道・バス・クルマなどすべての交通手段を統合し管理する企業が、真のTNCになるかもしれない。

トヨタとソフトバンクの最終目的は、将来的に自らがTNCとして総合的なモビリティーサービスを提供することなのではないだろうか。自動運転やライドシェアは次世代自動車産業における競争のポイントだが、手段であって目的ではない。

日本で解決していかなければいけない課題としては、少子高齢化や人口減少、労働者不足、過疎の問題があげられる。自動運転とライドシェアが、そういった問題を解決するという方向性で活用されれば、未来の日本人の暮らし方・働き方・生き方にも好影響をもたらすものと期待できるだろう。

田中道昭
立教大学ビジネススクール教授
シカゴ大学経営大学院MBA。近著に『2022年の次世代自動車産業 異業種戦争の攻防と日本の活路』。
 
(写真=時事通信フォト)
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