同社は米メガテック企業6社FAANNG(フェイスブック、アップル、アマゾン、ネットフリックス、エヌヴィディア、グーグル)の一角とされ、トヨタやウーバーテクノロジーなど450以上の企業・団体と手を組み、自動運転技術の開発に携わっている。ソフトバンクが出資している企業でもある。ほぼすべての自動車会社がエヌヴィディアのテクノロジーを必要としており、同社は次世代自動車産業全体を鳥瞰するポジションを築いている。
フアンCEOの講演で最も印象に残っているのは「トレーニング×シミュレーション×ドライビング」という3つの自動運転開発プロセスを強調したことだ。これまでの膨大な走行ビッグデータとAIの解析をもとに、仮想空間を利用したテスト環境でシミュレーションを繰り広げ、自動運転開発プロセスをスピードアップさせてきているのだという。
米ランド研究所によると、AIによる運転の安全性を人間より20%向上させるためには、自動運転(テスト)車を約110億マイル(177億キロ)走行させてデータを蓄積し、学習させる必要がある。これは現実世界に置き換えると、100台の車両を24時間365日走らせて518年かかる計算になる。
ところが、エヌヴィディアは、明るさや天候から、建物や路面の形状、街路樹の葉っぱまで厳密に再現した仮想都市空間を構築したうえで、さまざまなセンサーを使って取得した車両データを活用して、仮想車両の側も力学的に実際の動きを再現。地域によって異なる交通ルールも含めたあらゆるシナリオをシミュレーションできるプラットフォームをつくり上げ、AIの学習時間を劇的に短縮させたというのだ。
エヌヴィディアがAIによるディープラーニングを用いて自動運転の開発を進めているのに対して、日本の自動車メーカーなどはまだまだ“手と足で”開発しているといえる。
日本の一部自動車会社では自動運転技術の開発プロセスは分断されており、それぞれのプロセスの担当者が“手動で”つなぎ合わせているのが現状だ。一方でエヌヴィディアではプロセス全体をデジタル化させている。それにより、エヌヴィディアなどの先行企業の自動運転技術は爆発的に成長してきている。
そんな中、ソフトバンクは以前から、「Bits(情報革命)」「Watts(エネルギー革命)」「Mobility(モビリティ革命)」の3つの要素を「ゴールデン・トライアングル」と名付け、その中で基盤提供者となることを経営戦略の核と位置付けてきた。
第1次産業革命が石炭、印刷機、鉄道(蒸気機関車)の組み合わせから、第2次産業革命が石油、電話、自動車の組み合わせからそれぞれ生まれたように、次の革命は自然エネルギー、インターネット、電気自動車(EV)・自動運転・シェアリングサービスから生まれるという大戦略だ。