2018年10月2日に発足した第4次安倍改造内閣で、片山さつき参院議員が「地方創生担当相」として初入閣した。唯一の女性閣僚として注目を集めているが、かつて片山氏が広げた「不正受給=在日外国人」というデマは、現在もネット右翼の理論的支柱となっている。文筆家・古谷経衡氏は「悪質なデマを広げた片山氏の責任は重い」と指摘する――。

※本稿は、古谷経衡『女政治家の通信簿』(小学館新書)の一部を再編集したものです。

2018年10月2日、初閣議を終え、記念撮影に臨む第4次安倍改造内閣の閣僚ら(写真=EPA/時事通信フォト)

外国人を憎悪の対象とする詐術「片山理論」

「片山理論」の創設者こそ片山さつきであり、ゼロ年代後半からのネット右翼に隆盛の理論的支柱を与えたのが彼女である。「片山理論」とは生活保護不正受給者の多くを外国人と定義したうえで、その内容をいつの間にか在日コリアンとすり替えて憎悪の対象とする詐術である。東大卒の元大蔵官僚で国会議員がこの理屈を国会やテレビで語りだせば、事大主義のネット右翼はひとたまりもなく「片山理論」に染め上げられていく。

私が片山さつきを至近で目撃したのは、2012年7月1日の日曜日、東京都新宿柏木公園でのことであった。

当時、「メタル兄弟」と自称するネット右翼界隈の有名人が主催した反生活保護デモに呼応する形で、片山さつきがそのデモの前衛に立っていたからだ。

ここで前提の解説が必要であろう。まず「メタル兄弟」と聞いてピン、と来るものはもはや現在ではネット右翼界隈の中でも古参兵か、ネット右翼を長年チェックしてきたウォッチャーであると評せざるを得ない。「メタル兄弟」は、在特会(在日特権を許さない市民の会)への支持を公に出しては憚らない、元祖右派ユーチューバーのような存在であった。

民主党政権下(2009~2012年)のネット右翼界隈で一世を風靡した、ネット右翼の精神的支柱のような実兄弟であった。「メタル兄弟」のあだ名は自身のメタルソングへの思い入れからであった。この兄弟が解説したYouTube番組「ジャパンライジング」は当時、反民主党で気勢をあげるネット右翼、保守界隈にあっては有力な運動の原動力と見なされていたからである。

芸人・河本準一氏の母親の「生活保護不正受給」騒動

この「ジャパンライジング」のゲストとして招聘されたのが、片山さつきであった。その縁があって、片山は2012年7月1日の「メタル兄弟」主催の反生活保護デモに参加したのである。なぜ私がくだんの「ジャパンライジング」と片山さつきの接点を知っているかと言えば、私も同兄弟から同番組への出演をオファーされて、彼女より前にこの番組へ出演していたからである。

さて、今一度時空を2012年7月に引き戻す。このとき、前述のメタル兄弟の主催したデモの正式名称は「生活保護不正受給を正す議員を応援する“片山さつき頑張れ”デモ行進」である。

当時、週刊誌報道を機にお笑い芸人「次長課長」のコンビのひとり河本準一氏に対する、生活保護不正受給問題が世論を騒がせており、河本攻撃の最前衛が片山議員(当時、参議院、自民党生活保護プロジェクトチーム)であった。

正確に言うと生活保護を不正受給していた疑惑は河本準一ではなく河本の母親であった。河本は当時テレビに露出する人気芸人で高額所得者であるにもかかわらず、その親族である母親が息子の高所得をあてにせず独自に生活保護を受け取っていたのは「不正受給である」と批判を浴びたのである。