トランプが金正恩に個人用携帯番号を教えた理由

トランプ大統領は金委員長に「何かあったら連絡してこい」と個人用携帯電話の番号を教えたとも明かしている。これが本当なら大変な抑止力になる。トランプ大統領は金委員長を「彼はいい男だ」とさんざん持ち上げていたが、個人用携帯に何の連絡もしてこないで不穏な兆しが見えたら、いきなりズドンとやる可能性もある。金委員長もそれがわかっているから、勝手には動けない。少なくとも中間選挙まで、あるいは2年後の大統領選挙まで。トランプ大統領の個人用携帯に連絡しないで何かを画策すれば、攻撃する口実を与えてしまうからだ。

朝鮮半島の非核化については、ポンペオ国務長官が非核化措置の協議に向けて平壌を訪問する一方で、北朝鮮が核弾頭や核施設の隠蔽を画策しているとの報道が流れるなど、情報が錯綜している。

前述の通り、金委員長としては下手な動きをするとやられる可能性があるので、アメリカを刺激するような行動は当面、自重すると思う。非核化についても動かないほうが得策だろう。いずれ国務省が非核化プロセスの明確化を求めてくるだろうが、「完全な非核化」は15年、20年と時間がかかるという理解があるうちは焦って動く必要はない。アメリカ大統領選が始まる20年の2月くらいまでは、のらりくらりでいい。

金委員長を手懐けた(と思い込んでいる)トランプ大統領の興味はもう次に移っている。

ヨーロッパにイジメられすぎているロシアのプーチン大統領と今度は仲直りしようというのだ。今はロシアと北朝鮮とは仲よくなって、中国とイランは徹底的に叩く。ニューヨークの“ドン・ファン”ことトランプ大統領が意識的に行っている外交アプローチなのだ。

船橋洋一氏(元朝日新聞主筆)の『世界が劇場となった』という本があったが、トランプ政治、トランプ外交というのは、とことん「劇場政治」である。今回の米朝首脳会談はそれを象徴している。トランプ大統領と金委員長が揃ってノーベル平和賞を受賞しようものなら、今年一番の悪いジョークだろう。

(構成=小川 剛 撮影=市来朋久 写真=AFLO)
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