今回の再登板を素直には祝えない

2018年5月9日に行われたマレーシアの連邦下院選挙はマハティール・ビン・モハマド元首相率いる野党連合がナジブ前首相率いる与党連合に勝利して、マレーシア独立以来初の政権交代が実現、マハティール氏が15年ぶりに首相へ就任した。第7代首相は御年92歳。民主的な選挙で選ばれたリーダーとしては世界最高齢だろう。

マハティール氏が第4代首相を務めたのは1981~2003年の22年間。その間の18年にわたって首相の経済アドバイザーを務めた立場から言えば、今回の再登板を素直には祝えない。晩年になっても老骨に鞭打って表舞台に立たなければならない宿命に、同情の意を表明したいくらいである。

来日して講演するマレーシアのマハティール首相(18年6月11日)。(AFLO=写真)

15年前、首相を退いたときに私のところに「長年世話になった」と挨拶にきてくれたことがある。そのときに「あなたの22年間の成績表だ」と5段階評価の通信簿を手渡した。「経済政策」「マレーシアの国際的地位向上」「国民の生活向上」など、ほとんどの項目は5だったが、ただひとつ1を付けた項目があった。「後継者の育成」である。

自他共に認める後継者がいた

マハティール氏には自他共に認める後継者がいた。アンワル・ビン・イブラヒムという学生運動出身の政治家で、当時のマハティール政権の副首相、財務大臣を務めていた。私がマハティール氏の元に報告に出向いたときには、「後継者のアンワルにも同じ説明をしてくれ」と言われて、逐一同じ説明をして同じ資料を手渡す。それぐらい近しい、親子のような間柄だった。

しかし97年にタイのバーツ危機を契機にアジア通貨危機が起こる。マレーシアにも飛び火して通貨リンギットが売り浴びせられて、国債の格付けも下がっていた。ある朝、パニック気味のアンワル氏から私のところに連絡がきた。「5000億円あれば、危機は乗り越えられる」と言う。「集めてやるから安心しろ」と資金の手当てを約束して電話を切った。マレーシアテレコムなど政府がいまだ株を持っている有力企業がいくつかあったので、株を売るだけでそのくらいの資金はすぐに捻出できる、と私は踏んでいた。

しかしその作業に取りかかる間もなく、その日の午後にアンワル氏が逮捕されたというニュースが飛び込んできた。容疑は汚職と同性愛。イスラム国家は同性愛に厳しい。副首相を罷免されたアンワル氏は後に有罪判決を受けて、収監されてしまう。私が問い詰めたら、「逮捕したのは警察。私は与り知らない」とマハティール氏はとぼけたが、一種の国策逮捕だったのだと思う。