会社経営の毎日は不安の連続だ。どれだけ努力しても、うまくいかないことがある。頭の中には常に心配事が渦巻く。やり場のない怒り、苛立ちも生まれる。イライラを表出してしまうこともあるだろう。そんなときは、クラシック音楽で荒ぶる感情を制御し、リセットする方法をぜひ試してほしい。

貧乏ゆすりのリズムに合わせる『半音階的大ギャロップ』

あなたのイライラした心を表現するかのような曲が、リストの『半音階的大ギャロップ』だ。ファンファーレのような短いイントロの後、軽快なギャロップのリズムに合わせ、飛躍するような調子で曲が進んで行く。

このリズムが、貧乏ゆすりにピッタリだ。女性なら、ぜひ爪の先で、かちゃかちゃと机やラップトップを叩くといい。半音階でアップテンポなこの曲に自分の体の動きを合わせていると、妙に楽しくなってくるから不思議だ。

演奏は、ぜひ世界的ピアニスト、ランランの音で楽しんでほしい。難しい楽曲をものともしないテクニックにくわえ、独特の疾走感があり、一方で最終的なテンポを乱さず、しっかりと尺の中に収める正確さもある。

この曲を聴き、ランランに引っ張られるようにリズムを刻んでいると、3分ほど経ったころには、「そろそろいいかな」という程度には、負の感情をどこかにやることができるはずだ。

イライラを静めてくれるショパン

リズム打ちでイライラを消したら、次は負の感情を根本的に修正する段階。まだスッキリしたとはいえない感情をそのまま持ち越さないよう、整えたい。そんな整腸剤的な役割を果たしてくれるのが、ショパンの『幻想即興曲』だ。

この曲に合わせて、先ほどの『半音階ギャロップ』のように貧乏ゆすりの続きをしてもいいのだが、そんな気になれないほど、流れるようなこの曲の音の一つひとつに魅了されていくはずだ。負の感情は、この曲の進行に合わせて、少しずつ影を潜めていく。

そしてこの曲はぜひ、先日、紫綬褒章も受賞した日本を代表するピアニスト、小山実稚恵の演奏で聞いてほしい。流れ落ちるようなテンポの速い音をきっちりと制御し、正しい美しさを表現できる稀有なピアニストだ。楽曲が終わるころには、気持ちが清々しく整理されたような、そんな感覚を味わうことができる。

アンガーマネジメントという言葉がよく聞かれるようになった。マネジメントしなければならないほど、怒りの感情は厄介だ。ショパンでも静まらないなら、いっそ、音楽と一緒に怒りに身を任せ、一度それを味わい尽くしたほうがよいかもしれない。