究極の残業回避は「出社しない」

残業をめぐる風景は、1990年代も、2010年代も後半に近づいた現代も、そう大きくは変わっていない印象だ。そして、「若者は残業をするもの」という妙な価値観は、いつまでも根深く残り続けてしまっている。それはいったい、なぜなのだろう。

何が問題なのか、この20年間ほど考え続けてきた。そして、「向き合うべきは仕事」という一点のみを追求し、「人間とは向き合わない」という姿勢を明確に持つことにより、残業を回避できるのでは、という考えに至った。そこで、私の提案する最終的な解決策は「出社しない」ということだ。

相当な極論であることは承知している。しかし、残業が発生してしまうケースの多くは、私が見聞きするかぎり、要するに「こいつは残業させやすい」と上司や先輩から思われてしまうことに大きな原因があるように思えてならない。

先にも挙げたように、50歳過ぎのオッサンがひーこら言いながら残業をしている図というのはあまり見たことがない。それは、周囲がそのオッサンのことをもはや戦力として捉えていないとか、昔の武勇伝を聞かされるだけで面倒くさいから仕事を振らない、といった判断をしている場合もあるだろう。あるいは「これまでさんざん貢献してくれたし、これからはもうゆっくりさせてあげよう」という妙な配慮もあるかもしれない。また、もはや成長意欲も失い、新しい仕事に取り組まない人もいる。かつて、オッサンは「ワシはアナログ人間ですからなぁ、ガハハハハ」といい、「カタカタはキミに任せたよ。エクセルの資料作っといて」などと仕事から逃げていた。「カタカタ」とはキーボードを打つ音で、要するにパソコンのことだ。

技術者であれば、年齢を経るにつれ熟練の技が磨かれていくことはあるだろうが、ホワイトカラーの場合、ある一定のレベルに達するとそれ以上はなかなか成長しづらくなる。年を重ねて人脈が増えまくり、まわりの人を巻き込んでバシバシと仕事をこなしているように見えたとしても、ひとりの作業者として見た場合はすでに頭打ち状態……そんな「成長の踊り場」といった時期はいつか必ず迎えてしまうものである。

管理職は「仕事の内容」ベースで部下に業務を差配せよ

となれば、管理職やリーダーが残業をお願いする人材として、オッサンはもはや対象外。オッサンからしても「とりあえず、あと何年か波風立てずに働き、淡々と給料だけもらって定年まで逃げ切りたい」なんて考えているから、必死に仕事に取り組む姿勢など、まったく期待できない。そんななか、「なんとか頑張らなくては社内での居場所がなくなる」と危機感を抱いている若手が、残業押し付けの格好のターゲットとなってしまうのだ。

そして若手のなかでも、とかく押し付けのターゲットにされてしまうのは、親切で配慮ができる人物だ。そういった人が、その場しのぎをしたいだけの上司や先輩から安易にロックオンされてしまう。さらに、忙しい若手のサポート役を担わなければならないはずのヒマなオッサンたちも、逃げ切ることに頭がいっぱいで、まったく役に立たない。そんなこんなで、真面目で気配りのできる若手が、本来であれば背負う必要のない業務までも引き受け、長時間残業をし、疲弊していく。

こういった状況は「上司とたまたま目が合った」程度でも実現されてしまうもの。上層部から新しい仕事を命じられた部長は、「さて、誰にアサインするか……」と考える。たまたまその場にいたのが若手社員・A君だ。A君は入社3年目。「早く一人前として認められたい」「これからもっと活躍したい」といつも前向きであり、残業も厭わない爽やかナイスガイである。「そうだ、コイツがいたわ。けっこう忙しそうだけど、やる気はあるし、イヤとは言わないだろう」といった適当さで、部長はA君の仕事量を増やしてしまうのだ。

そして、A君は頑張って長時間残業をこなしながら、何とか業務を終わらせようと無理を重ねていく。次第に心身のバランスを崩し、最終的には心を病んで休職に追い込まれたりするのだ。さらに最悪のケースだと、うつ病をこじらせて自殺をしてしまう可能性すらある。

こういった状況を本気で回避するには、仕事を乱暴に振られがちな若手は「同僚と会わない」という対策を講じるしかないだろう。

もっとも、そんな振る舞いを若手がするのはなかなか難しいもの。であれば、管理職のほうから「人間関係」ではなく「仕事」ベースで業務の差配を考えるべきだ。そして、年齢や声の掛けやすさとは関係なく仕事を割り振らなければならない。もちろん、きちんと業務をこなして、然るべき成果を出したらボーナスや出世という形で、ちゃんと処遇することも重要になる。