大型バイクのお返しに、菜っぱ?
【若新】逆に、このエコノミーシステムにうまく参加できる人は、みんなで豊かさを高めていくコツをつかんでいます。もらうだけの搾取では終わりません。例えば、大型バイクをタダで譲ってもらったという若者ですが、バイクの所有者は年配の人で、うまく乗りこなせなくなったそうです。それで「自分が持っていてもムダだから、君にあげるよ」と。所有者が変わることで、バイクの価値は一気に上がりました。でも彼は、バイクを「0円」で買ったのだとは思っていません。自分に提供できるモノを、提供しようと考えているはずです。でも、バイクに見合ったお金やモノで返す、ということじゃないんです。バイクをくれた方やその周りの方に、なにか「手伝って」と言われれば、喜んで駆けつけるでしょうし、あるいは、庭で育てた菜っぱを差し入れにいくでしょう。
――大型バイクのお返しに、菜っぱ、ですか?
【若新】“お互いさま”の善意が対等であれば、提供し合うモノは、できる範囲のモノで何でもいいんです。等価交換じゃなくていいのが、このエコノミーシステムの面白いところです。モノが人の手を渡り、価値が最大化するところに循環していくんです。
もちろん、このような“お互いさま”の文化を窮屈に感じる人もいるでしょう。確かに、お店に行って自分のお金で買えば済む話です。でも、モノがあふれていると言われる現代において、この「善意のエコノミー」はとても合理的に富の循環を行っていると思うのです。今風に言えば、「シェアリングエコノミー」の一種でしょうか。そこに参加するには、一定のリテラシーとセンスが求められます。搾取するだけの人間では、移住先のコミュニティに根付く本当の価値を体験できない。そういう人には、なりたくないものです。