地獄の韓国社会=ヘル・コリアに生きる若者
「三放世代」という言葉をご存じだろうか。これは近年、韓国の若者が「恋愛・結婚・出産」の3つを諦めざるをえない世代であるとして、韓国国内で当然のように使われている言葉である。最近では「マイホーム・人間関係・夢・就職」の4つを足した「七放世代」という言葉まで使われ始めている。
漢江の奇跡と呼ばれた経済成長から一転、就職難に始まり、過酷な労働環境、低賃金など多くの要素が重なって生まれた、若者が生きづらい社会。この状況だけを聞けば、そのまま日本にも当てはまりそうな気もするが、決定的な違いはこの「三放意識」が若者間で徹底的に共有され、自らのおかれた環境を強く悲観しているところにある。
韓国の大学受験競争は苛烈だ。パトカーで受験会場へ駆け込む学生の姿は、まるで風物詩のように日本のニュースでもおなじみになりつつある。最近では将来のキャリアを見据えた高校入試も激化傾向だ。そんな環境で学生の競争意識はあおられ、自分の夢を追うことよりも、他人に誇ることのできる企業への就職や華麗な経歴に意識が向くようになっている。
しかし、一流大学を出ることは有名企業に就職するための最低条件にすぎず、実際に職を得る若者はほんの一握りだ。大学を出ても就職できず、非正規で生計を成り立たせている若者も多い。ただし、非正規を含めても就業先は十分でなく、職の奪い合いは止まらない。4月の若者の失業率は11.2%(前年同月比0.3ポイント増)と過去最悪を記録した。
たとえ有名企業に就職できたとしても、過酷な労働環境が彼らを待ち受ける。大手家電企業LGに就職した友人は2年で退社した同社を「Hell-G」と呼んで自嘲する。
それでも韓国の若者が有名企業を目指すのは、新卒での就職先が生涯年収に大きな差をもたらすためだ。少しでもいい会社に入るため、大学卒業後に有名企業や国際機関などでインターンを重ね、経歴書を充実させてから就職活動を始めることもしばしばだ。LGに入社した前述の友人も、半年ずつ4カ所でのインターンを経験した。「今となっては時間や労力をかけすぎたと感じるけど、当時は不安だった。だから、手あたりしだいに有名な会社や組織でのインターンを続けるしかなかった」と友人は話す。
生きづらさを感じているのは若者だけではない。韓国は全世代を通し、OECD加盟国で最悪の自殺率を記録してしまった。いつしか「Hell Korea」という言葉が生まれ、国内の一部で流行している。