南伊豆の住民の声「外から来る人に抵抗感」
杉並区が約200キロ(クルマで3時間半から5時間)離れた南伊豆につくっている特別養護老人ホーム(特養)が、家族との関係を断絶する「姥捨行為」にならないかという論争が勃発した。ネット上では賛否が激突し、双方の意見が、私たち日本人の老後観を浮き彫りにしているようにもみえる。主な論点は2つ。都内にあふれる特養待機者問題を解決するために有効な手段なのかどうか。そして、南伊豆が入所者にとって本当に魅力的な場所かどうかだ。
まず、第1の問題である。以前からこの問題に取り組んできた杉並区議会議員の堀部康氏はこう解説する。
「東京都青梅市や埼玉県など、杉並から日帰り可能な距離の特養に定員割れが発生するようになっています。西多摩の事業者が『営業しないと(特養の)入所者数を維持できない』といった報道もありましたが、こうした空き情報が共有されていないのです。この現象の背景には法改正だけでなく、他の民間施設の充実や介護従事者不足といった要因もあるようですが、こちらの課題解決が先です。県境を2つも越えなくてはいけない静岡県に区の補助で特養をつくる必然性はありません」
次に、第2の問題である。特養の入所要件である要介護3(認知症が進んでいる、自力で起き上がれないなど)以上の高齢者に、南伊豆に住みたいという「本人の意思」が確認できるのかという問題は横に置くとしても、居住地域から遠く離れた特養建設は、過去に大失敗した「山形県舟形町特養構想撤回事案」があることがわかっている。