東京都杉並区が静岡県南伊豆町に開設を予定している特別養護老人ホームをめぐり、激しい論争が起きている。杉並区役所から特養「エクレシア南伊豆」(仮称)までは約220キロ。高速道路や新幹線をつかっても片道約4時間はかかる。杉並区から入所した場合、家族が定期的に見舞うには負担が大きく、いわゆる「姥捨て」にあたるのではないかとの批判が起きているからだ。「怒りの告発!南伊豆に新型『姥捨山』」(http://president.jp/articles/-/22038)の続報をお届けしよう。

「全国初」だったが、まだ「日本唯一」

「エクレシア南伊豆」は、杉並区と南伊豆町、静岡県が2014年に基本合意を行ったもので、都道府県の枠を超えた全国初の取り組みとして注目を集めた。定員は90人で50人は区民が利用し、40人は町周辺から入所するという。建設費などの整備費は17億7000万円。杉並区は6億2400万円を支出し、年間600万円の運営費も負担する。今夏、入所者の募集を開始し、来年1月にオープンする予定だ。

大自然豊かな南伊豆の航空写真。西からの季節風が強く風力発電が行われている。(時事通信フォト=写真)

杉並区では特養への入所を希望する待機者が約1200人いるという。都市部で整備の土地を確保するのは難しいが、地方部であれば可能だ。今回、南伊豆町は土地を無償で貸し出している。特養の誘致によって、観光振興や雇用創出を見込んでいるからだ。

ところが「全国初」というこの取り組みは、まったく広がっておらず、現状では「日本唯一」となっている。なぜ杉並区は、頓挫が見込まれるこの計画を推し進めているのだろうか。

なぜ舟形町の計画は失敗したのか

実は、地方部で都市部の高齢者向けの特養を整備するという計画自体は、初めてではない。山形県舟形町が進め、頓挫した計画がある。

舟形町は過疎対策として、2009年から「特養ホーム構想」を掲げ、特区として認めるように厚労省へ陳情を重ねていた。12年には東京都の大田、荒川、品川の3区から6人の高齢者を招き入れている。しかし約1年後、6人のうち3人は町内の病院に移り、残りの3人は都内に戻ってしまった。そして去年2月、町長選で森富広町長が当選すると、「入所者や職員の確保が難しい」などとして奥山知雄前町長が推進していた構想を見直すこととなり、去年6月、町は構想の撤回を正式表明している。

なぜ舟形町の計画は失敗したのか。ここに興味深い資料がある。2012年、舟形町の奥山前町長は、自ら東京都の各区を回り、特養入所の要望についてヒアリングを実施している。資料はその結果をまとめたものだ。本稿の最後に抄録を掲載した。読者のためにポイントをかいつまんでお伝えしよう。