やりたいことができないのは、自分のプレゼンのレベルが低いから

【田原】結局、電話をかけてきた会社に入らないでトーマツに入社されますね。どうしてですか。

【斎藤】監査法人の業界で、ベンチャーといえばトーマツ。ベンチャー企業が株式公開するときの支援で圧倒的にトップだったからです。

【田原】入社して、どんなお仕事をしていたのですか。

トーマツベンチャーサポート 事業統括本部長/公認会計士・斎藤祐馬氏

【斎藤】仕事は2つありました。1つは、会計士としての仕事。これは一番下っ端なので、指示されたことをひたすらやるだけです。もう一つは、リクルーティングの現場責任者。前年の採用でトーマツはあまり人気がなかったらしく、今年は若いやつに任せてみようということで自由にやらせてもらいました。mixi創業者(現会長)の笠原健治さんにイベントにきてもらうなど、いろいろ仕掛けることができておもしろかったです。

【田原】1年目から責任者をやらせてもらえるんだ。

【斎藤】大企業だとやりたいことができないという話をよく聞きますが、そんなことはありません。ベンチャー経営者がプレゼンをして投資家からお金を投資してもらうのと同じで、サラリーマンも上司にプレゼンをして納得させればいい。上司は、起業家にとっての株主と同じ。やりたいことができないのは、自分のプレゼンのレベルが低いからだと考えなければいけません。

Jカーブの底をサポートしたかった

【田原】もともとやりたかったベンチャー支援はできたのですか。

【斎藤】いきなりは無理でした。ベンチャーは立ち上げ当初がもっとも苦しく、ある時期からグッと伸びていきます。この成長曲線をJカーブといいます。監査法人がサポートするのは事業が軌道に乗って、2年後くらいに株式公開しますという時期から。一方、私がやりたかったのは、Jの字の底の時期。そこにギャップがありました。

【田原】上司にプレゼンしても無理だった?

【斎藤】はい。だから最初は本業と別に、平日の夜や週末を使ってベンチャーの経営者と個人的に会うところから始めました。

【田原】ベンチャーの経営者、会ってくれますか。

【斎藤】最初はダメでしたね。というより、最初はどこにベンチャーの経営者がいるのかもわからなかったですから。とりあえずネットで調べて異業種交流会に申し込んだのですが、参加しているのはネットワークビジネスや保険の営業の人ばかりでした(笑)。でも、最初は質より量だと思って、とにかくいろんな人に会いました。量をこなせば、そのうち質も見えてくるだろうと思って。

【田原】量をこなすといっても、本業があるから大変でしょう?

【斎藤】個別にゆっくり時間は取れなかったので、飲み会を開いていました。そうすると5人、10人の経営者といっぺんに会えるので。あとはいろんなイベントを開いたり。自分はフットサルをやらないのですが、若手経営者に愛好家が多いと聞いて、フットサル大会を主催したりしてました。

【田原】飲み会のお金はどうするんでか。経費で落ちるの?

【斎藤】会社の業務としての活動ではないので、基本は自腹。当時、給料は30万円ほどでしたが、毎月10~15万円は使っていました。1Kに住んでいて家賃が安かったですから、なんとかなったんです。ちなみにその部屋には結婚後もしばらく夫婦2人で住んでいました。子どもが生まれてさすがに引っ越しましたが。

【田原】本業以外の活動に精を出していて、会社から睨まれませんでしたか。

【斎藤】会計士の仕事は夜遅いので、経営者と会うために途中で抜けることがよくありました。当然、こいつは何をやっているのか、おかしなやつだなという空気はあったでしょう。幸い、私がリクルーティング担当をしていたときのボスが活動を理解してくれ、社内で命綱的な存在になってくれていました。そのときのボスが、いまトーマツベンチャーサポート(TVS)で社長を務めています。