いわれなき財産隠しの汚名をいかに晴らすか?

結婚生活を送っていたときも経営に関与していなかったSさんにとって、元夫が詐害行為を疑われるなど寝耳に水。元夫の事業が厳しい状況だということも、そのときに初めて知った。どうやら、贈与を受ける前から元夫の返済は遅れがちだったようで、債権者からするとあきらかに財産隠し、偽装離婚とみなされたのだった(*話の文脈から推測すると、元夫は確信犯的に財産隠しをしていた可能性が高いのではないか思われる)。

一般的に、偽装離婚の目的は不当に経済的な利益を得ること。生活保護の不正受給の問題が注目されているが、最近では偽装離婚をして生活保護や児童扶養手当を得たり、相続税や借金から逃れたり、保育園の優先入園の権利を手にするケースが増えている。

偽装離婚して不正に金銭を受給したことが明らかになった場合、公正証書原本不実記載等の罪に問われ、5年以下の懲役または50万円以下の罰金となる。借金等を抱えている場合、偽装離婚で隠匿しようとしていた財産は処分・換価され、債権者は配当される。悪質と判断されると、詐欺破産罪に問われ、10年以下の懲役または1000万円以下の罰金という重い罪になってしまうのだ。

改めて自分の立場を認識して絶望的な気持ちになったSさん。元夫の債務は、250万円、延滞金は140万円。病に伏せる元夫の資金は皆無だ。このままでは不動産を手放すしかない。一方、Sさんもシングルマザーで日々の生活をするのが精一杯。もちろん弁護士を雇うお金もない。八方塞がりとはこのことだ。

しかし、元夫の事業悪化の事実を知って贈与を受けたわけでは決してない(*妻は法律知識が不足していたため、離婚後の財産分与が無税であるということを知らなかった可能性が高い)。その真実を訴えれば、きっとわかってもらえるはず! とSさんは裁判所に提出する答弁書にその事実を詳しく記載した。裁判の当日も、真摯に事実を訴えた。

ところが、裁判所には認めてもらえなかったのである。

それはSさんがウソをついていると認定されたわけではない。実は、自分にはまったく身に覚えがないことでも、債務者である元夫の支払いが止まっている時点で、離婚前に贈与されたということは、債権者に害を及ぼすと知りながら自分の財産を減少させるという「明らかな詐害行為」にあたるという見解だったのだ。

知っている、知らなかったという部分はほとんど関係ないことなのである。本当のことを話せばわかってもらえると信じていたSさんは大きなショックを受けた。

裁判は何度か行われるとのことだったが、詐害行為で判決が出てしまうと所有権が元夫に戻され、そのまま差し押さえられて、最も悪いケースでは競売になる可能性がある。それだけは絶対に避けたいとSさんは元夫の経営の悪化を知らずに贈与を受けたことを主張し、和解を申し立てることにした。