検察は何が何でも起訴したかった

――今回、そもそもソウル中央地方検察庁が韓国ロッテを捜査するきっかけは何なんですか。

私の聞いている話では、昨年ごろから捜査していたようです。捜査のきっかけは、韓国ロッテとは別の会社に捜査に入ったときに、その会社を使って韓国ロッテが裏金を作っているのではないかという資料が出てきたそうです。それに関連して、ロッテケミカルという石油会社の原料の仕入れに関して、帳簿上の仕入れと実際に購入した金額との差が大きいということだったようです。

――日本のロッテ物産が関与したといわれていましたが。

確かに、一時日本のロッテ物産という貿易会社がからんでいるのではないかといわれました。IMF危機の1998年ぐらいからですか、ロッテケミカルが日本の商社から石油を買っていたのですが、カントリーリスクが高まったので直接韓国に売りたくないという話があり、ロッテ物産を経由するようにした経緯があります。当初は双方に経済的なメリットがありました。韓国で借りるドルの金利よりも、日本の方が安かったのでその差でロッテ物産の利益が出ていた。日本のロッテ物産としては貿易ができて、なおかつ利幅を稼ぐことができたので、メリットがあったのですが、韓国が正常化することでそうしたうまみがなくなってきた。当初は2000億円ぐらいの取引だったのですが、2013年ごろからなくなったのです。一時日本に利益を流しているのではないかといわれたのですが、韓国の方が税金が安いので、基本的にはありえません。誤解なんですね。しかしそうしたこともあって検察も捜査したのでしょう。

――捜査が本格的に動き出したのは。

6月10日のことですが、韓国ロッテの政策本部と呼ばれる経営企画機能を持つ中枢部門、さらに昭夫の自宅などに前代未聞の規模の捜査員が投入され、捜査が始まりました。ところが、これは韓国メディアで報じられていることですが、組織的な証拠隠滅などがあり、実際にはなかなか証拠が出なかった。その上、先ほど申し上げたとおり、韓国ロッテのナンバー2、李仁源副会長の痛ましい自殺などがあり、捜査が難航した。それで捜査の方向は変わって、弟の疑惑だけでなく、父は贈与税の問題で追及される形になったようです。私に関しては韓国ロッテグループから受け取った役員報酬が横領にあたるとされるものです。

――ソウル中央地検は当初どういう捜査を行っていたのでしょうか。

特捜4部と5部があたっていました。5部は軍事産業、防衛産業がらみの捜査をするところらしいのです。実はロッテワールドタワー(第2ロッテワールドタワー)を建てるときに、近くにあった基地の滑走路が邪魔になった。そのとき滑走路の向きを変えてロッテ第2タワーが建てられたとされており、そのとき韓国ロッテ側から政治に対して何らかの要請があったのではないかという疑いがあって、そうした捜査が行われたのだと思います。ただ、いまではこの問題はもう捜査をやっていないと思います。

――韓国ロッテの経営陣を対象とした捜査から重光一族に捜査の目が向けられるようになったのはどういったきっかけだと思いますか。

李仁源という韓国ロッテの副会長が自殺したのが何より大きなきっかけだったと思います。グループ会社の社長が裏金を作ったり、ありもしない減価償却費を主張して支払い済みの税金の還付を受けるため国に裁判を起こして取り戻したりと、いままでのロッテでは考えられないいろいろな問題が判明しました。そのグループ会社と昭夫をつなぐ糸が李仁源の自殺によって切れてしまったのです。それで方針が切り替わったのだと思います。

――それ以外に金庫番といわれた人が自殺したのはどのような影響があったのか。

ほかの人間は副会長の指示でやりましたと言い、弟は副会長から何も聞いていないという形になって副会長がすべてを背負い込む形になりました。検察は当初、弟を逮捕しようとしていたのだと思いますが、それができなくなってしまったのです。検察としては過去最大規模の捜査員を投入して韓国第5位の財閥の捜査をしたわけですから、何もないでは済まされない。このままだと検察の責任問題になる。創業家全員が悪いことをしたという方向に捜査を切り替えたんだと思います。

昭夫が韓国での活動の拠点としている政策本部から、グループ会社からの私や父への役員報酬の一覧表を出してきたのです。また、父は私の姉と妹らに株を贈与したときに、株の譲渡に関する詳細な報告を検察庁に提出したと聞いています。それで私が役員報酬を横領したとか、父は贈与税を払っていないなどという疑いをかけられたわけです。しかし、先ほど申し上げたとおり、韓国ロッテに対する融資を承認するとか、第2ロッテワールドタワーを建てるときに日本で500億円調達して貸し付けるなど、韓国のグループ企業に対しての仕事もきちんとしていたと主張しています。ただ、検察は「取締役というのは会社と個人との契約なんだ。取締役をしている会社に対してなんの事務的作業をしたのですか」というわけです。私はロッテグループの当時はナンバー2でしたから、それぞれの会社で事務的な仕事をするということではなく、グループ全体の仕事をすることで貢献していているということをお話しました。しかし検察は何が何でも起訴したかったようで、あとは無罪になるかは裁判所で決めることだということのようです。