トヨタは手当を廃止、2つの壁はなくなる

共働きと専業主婦では、生涯所得に大きな差が生まれる。男女共同参画白書によれば、共働き世帯と専業主婦世帯は1990年代半ばに逆転し、その後は差が開く一方だ。2014年の共働き世帯は1077万世帯で、専業主婦世帯の720万世帯を大きく上回っている(図1)。

こうした傾向を受けて、専業主婦に有利な仕組みだった「配偶者控除」も廃止が議論されている。2015年、安倍晋三首相は国家公務員の配偶者手当ての見直しを指示した。また民間企業には先行した動きもある。トヨタ自動車は段階的に配偶者手当を廃止し、その分を子供手当の引き上げにあてる。

既婚女性の働き方をめぐっては、2つの「壁」が存在するといわれる。ひとつは配偶者控除の対象になる「年収103万円」、もうひとつが社会保険の扶養家族を外れる「年収130万円」だ。この2つが「働きすぎると損をする」という「壁」だった。

「壁」がなくなるのならば、専業主婦の妻にフルタイムで働いてほしいと考える夫もいるだろう。だが話は簡単ではない。社会学者の水無田気流氏は「『専業主婦は暇だ』というのは幻想にすぎない」と指摘する。

「ランチタイムにカフェでくつろぐ女性をみて、『主婦は暇でいいよな』と思うかもしれません。しかし外で働く『有償労働』と、家庭で働く『無償労働』を合算すると、日本の女性の総労働時間は先進国のなかでも非常に長い。『昼間から暇』なのではなく、『この時間しか集まれない』と捉えるべきです」

社会生活基本調査(11年)によると、結婚している男女で「家事関連時間」(家事、看護・介護、育児、買い物の合算)を比較してみると、「子供あり」の専業主婦家庭でも夫の平均は1日あたり46分。一方、妻の平均は「夫婦のみ」の共働きでも191分にのぼる(図2)。

女性の家事関連時間は、既婚か未婚かでも大きく異なる。15歳以上の人の家事関連時間を比較してみると、未婚男性は16分、既婚男性は28分と12分ほどしか違わないが、未婚女性は1時間3分、既婚女性は5時間1分と4時間もの差があることがわかる(図3)。

「いまでも既婚女性は『家庭を守る』ことに多くの時間を費やしています。洗濯機や掃除機といった家事テクノロジーが発達しても、女性の家事時間は一向に減っていません。これは女性の時間は女性個人のものではなく、家族の共有財産と考えられてきたからです」