長時間労働を支えた「性別分業」の現在

日本の女性の忙しさは睡眠時間からもうかがいしれる。男女の睡眠時間を比較すると、10歳から29歳までは男女とも同程度だが、30歳以降は明らかに女性のほうが短くなる。

「睡眠時間は『究極の休憩時間』。先進諸国で男性より女性の睡眠時間が短いのは珍しい傾向です。女性の『寝る間もない忙しさ』を象徴しています」

こうした状況で、女性がフルタイムで働くのは容易ではない。日本の雇用環境においては、正社員は当然のように長時間労働を求められる。水無田氏は「日本企業では依然として『ジョブ』と『メンバーシップ』の完全一体型就労が主流」と話す。

「『会社村の住人』として多くの仕事を抱え込んでしまうので、分業もままならない。だから『代わりがいなくて休めない』となる。日本で男性の長時間労働が可能だったのは、女性が家庭で家事育児を一手に引き受けるという『性別分業』が行われてきたからです。妻に働いてほしいのであれば、まずは男性側が『性別分業』という働き方をあらためる必要があります」

そこで水無田氏が提案するのが「有給休暇全取得の義務化」だ。現在、日本人の有給取得率は48.8%で、この30年、改善するどころか悪化している(図5)。有給取得率が向上すれば、仕事を小分けにする「モジュール化」が進み、長時間労働も是正しやすくなるだろう。

「日本では『女性の生き方/働き方』の議論が繰り返されてきましたが、本当は『男性の生き方/働き方』こそ議論すべき。まずは有給すら取れないような働き方を見直してみてはどうでしょうか」

社会学者 水無田気流(みなした・きりう)

1970年生まれ。早稲田大学大学院社会科学研究科博士後期課程単位取得満期退学。詩人として中原中也賞、晩翠賞を受賞。近著は『「居場所」のない男、「時間」がない女』。
 
(構成=辻本 力)
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