ディベートの権威でも英語はずっと苦手だった
【三宅義和・イーオン社長】今回は立教大学の松本茂先生をお迎えしました。先生はNHK「おとなの基礎英語」の講師としてもたいへん有名です。おそらく、テレビで先生のお姿を目にしたことがある方もたくさんいらっしゃると思います。街を歩いていると、「あっ、松本先生だ」と声をかけられることもしょっちゅうではないですか。
【松本茂・立教大学教授】多いですね。結構面白い体験もあります。例えば、成田空港で隊列を組んで歩いている警察官の中から1人飛び出してきて、「松本先生、握手してください」と言われたことがあります。あるいは、キャビンアテンダントさんがツーショットを撮らせてほしいとか、出国の際に出国審査官に「いつもテレビで拝見しています。いってらっしゃい」と声をかけられたこともあります(笑)。
【三宅】立教大学経営学部国際経営学科で教鞭をとられて、グローバル教育センター長も兼務されています。また、先生は英語ディベートの権威でもあります。さらに、文部科学省や中央教育審議会等の各種会議の委員も務めておられ、まさに八面六臂の活躍です。そんな先生の英語との出会いを教えてください。
【松本】小学校時代は英語を学ぶという機会もなかったですし、英語を使うということももちろんありませんでした。
【三宅】そうすると、中学校からということですね。どのような学び方をしていたのでしょう。
【松本】通っていた学校が東京教育大学(現在の筑波大学)の付属校だったこともあり、英語の授業はその時代としては画期的な「パターンプラクティス」というスタイルでした。具体的には、まず先生が絵を示します。そこにリンゴが描いてあったとしたら、先生が「I like apples.」と英語で言います。まずは、それを生徒は真似ます。次に、オレンジの絵が示されたら、生徒たちは、「I like oranges.」と発音し、「Not」と先生が言ったら「I don't like oranges.」というように、パターンに沿って英語を発話していく授業でした。
英語を分析的に教えるというような文法中心の授業ではありませんでした。もちろん、結果として文法に従ってはいますが、「I」は主語で、「like」は動詞だといった勉強ではなかった。授業は基本的に英語で進められました。ですから、ちゃんとした英語は発音できるのですが、意味がよくわかっていないこともありましたね。頭で考えずに、口は指示に沿ってレスポンスできるという感じです。自分のことは話せないけど、単語の置き換えは瞬時にできるようになりました。
【三宅】日本人の教諭でしたか。
【松本】はい、そうです。
【三宅】非常に珍しい。私が中学生の頃の英語の授業は、教科書中心。授業中に当てられた部分を読んで訳してと、もうそれだけでした。今のお話のように、繰り返して声に出す練習、瞬時に話す練習というのは素晴らしいですよね。
【松本】全国の中学校の中でもかなり進んだ指導をしている先生だったと思います。とはいえ、英語はずっと苦手でした。そこで、高校に入ったのを機に、リセットして勉強し直そうと考えました。まず、高校の教科書のレッスン1を予習しました。ところが、わからない単語を辞書で調べたら、レッスン1だけで60数個もありました(笑)。