英語に対する日本人のコンプレックス

松本茂・立教大学教授

【三宅義和・イーオン社長】松本先生の大人向けの英語番組は5年も続いていますね。それを多くの人が視聴しているということの裏側には、日本人の英語に対する苦手意識があると思います。なぜなのでしょうか。

【松本茂・立教大学教授】英語に対するコンプレックスでしょうね。英語学習に対する成功体験がなく、自信を持てないのだと思います。中高生のときは学校で「単語をこれだけ覚えろ」と言われ、小テストが繰り返される。点数が低いと、自分がいかにできないかということを刷り込まれていくわけです。

苦手のまま大人になって、たまたま自分のそばに英語を流暢にしゃべっている人がいると、もう絶対無理だとわかっていながら、「あのようになれたらいいのにな」という自虐的な憧れを持ちます。それはもう、コンプレックスそのものと言っていいでしょう。

【三宅】中高年になると学生時代に比べて記憶力が低下したとか、仕事が忙しくて学習時間が確保できないというふうなことになるわけです。とはいえ、やはり仕事上で英語が必要だという人も増えています。社会人が英語をやり直す場合、何からやり直したらよいのでしょうか。またどういった点に気をつけるべきかアドバイスをお願いします。

【松本】直接的な答えにならないかもしれませんが、英語学習というのはダイエットに似ていると思います。どちらも努力と我慢が求められますから長く続きません(笑)。だから、モチベーションをどうやってキープするかが一番大事です。だいたい、多忙な人は言い訳を思いつくわけです。「今日1時間英語を勉強しても、どうせ大した成果はない」とやめてしまう。すると、今度は英語ができないというコンプレックスだけではなくて、学習を続けられなかったという負い目も背負い込むことになります。

【三宅】最近の大学生を見ていまして、英語の非常によくできる学生と、そうでない学生が二極化している気がします。立教大学の経営学部国際経営学科では「バイリンガル・ビジネスリーダー・プログラム(BBL)」をスタートさせておられますが、この取り組みの内容と成果について教えてください。

【松本】1学年150人で、男女比は55対45で女子学生のほうが多いです。基本的には普通の高校を卒業した生徒のうち、英語が他の科目より得意という学生が多いようです。入学から1年半かけて英語で経営学の基礎を学べる力を養っていきます。

プレゼンテーション、ディスカッション、ライティングなどの力を重点的に強化します。要するにビジネスに関係する内容について、文献を読み、英語でサマリーできる。ビジネスに関する講義・講演を英語でノートが取れる。自分たちで調べたことに関してプレゼンをして、質疑応答をする。その際、ディベート的な要素も体験する。こういったシラバスに則った学習を2年の春学期まで行います。

2年の秋学期からは「International Business」という専門科目が英語で始まります。さらに、この学科には世界各国から常時50人ほどの留学生が在籍していますので、3年の春学期からは一緒に授業を受けてその中で揉まれていくという状況ですね。ちなみに、TOEICは年に2、3回受けてもらいますが、4年生の終わりまで、全員のスコアが右肩上がりに推移していきます。他大学の経営学部、商学部では逆に右肩下がりになる学生が多いのとは対照的です。

【三宅】留学生と同じ立場で議論をしていると、発言することに慣れますし、度胸もつきます。先ほど先生が言われたコンプレックスもだんだん取り除かれていきますね。

【松本】まずそういう環境で発言しないと、良い成績も取れません。海外との交流に関しても、うちの学生の場合は、半数以上が半年ないし1年間、交換留学を経験します。留学先の経営学部で授業を受けてきますので、実力も上がります。