下手でもアート

若新雄純(わかしん・ゆうじゅん)
人材・組織コンサルタント/慶應義塾大学特任助教
福井県若狭町生まれ。慶應義塾大学大学院修士課程(政策・メディア)修了。専門は産業・組織心理学とコミュニケーション論。全員がニートで取締役の「NEET株式会社」や女子高生が自治体改革を担う「鯖江市役所JK課」、週休4日で月収15万円の「ゆるい就職」など、新しい働き方や組織づくりを模索・提案する実験的プロジェクトを多数企画・実施し、さまざまな企業の人材・組織開発コンサルティングなども行う。
若新ワールド
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【若新】今後、「ゆるスポーツ」をどのように発展させていこうと思ってますか。

【澤田】「ゆる」という概念を、スポーツ以外の分野にも拡張したいと考えています。まずは、「ゆるミュージック」をやりたいなと。スポーツ同様、音楽にも排他的な側面があって、リズム感がないとか、歌が下手とか、楽器を触ったことのない人にとって、音楽は結構ハードルが高いものです。カラオケに行ってもずっと手拍子だけで、肩身が狭い人もいますよね。リズム感がなくても、歌が上手くなくても楽しめる音楽がもっとあっていいと思うんです。

【若新】なるほど。そう考えると、「ゆるアート」みたいなのもやりたいですね。アートってなんか高尚なものだというイメージがあるので、敷居が高いです。大人になると、下手な絵を人前で書きづらくなります。子どものころは、そんなの気にせず落書きしてたし、そこに何かメッセージがあれば立派なアートですからね。さまざまな解釈も生まれるだろうし。

【澤田】今、子どもに「好きなように絵を描いて」と言うと、大抵の子どもはジバニャンやピカチュウを描くらしいです。つまり、同じモチーフで描こうとするのです。「アート」の定義にはいろいろあると思いますが、「ゆるアート」を定義するなら、「下手でもいいから、あなたらしさが出ればいいよ」ということにしておけば、誰もが楽しめそうです。絵の上手な人も、下手な人も、みんな描けばいい。参加者が広がることが、「ゆる」のいいところですね。

そう考えると、日本人はつくづく真面目だと思います。裏を返せば勤勉でルールを遵守するということですが、今はもっと「ゆるく」構えて、明るくポジティブに、自ら新しいルールをつくりながら、しなやかに進めばいいのではないでしょうか。

【若新】そうですよね。勤勉によって手に入れられるものが分かりにくくなってきました。中世ヨーロッパの「スポーツは貴族の遊びだった」という話もそうですが、なんというか、社会のプログラムから解放された時間の中からじゃないと、新しいコンテンツは生まれないんだと思います。日本の漫画もコスプレも、最初は遊びのなかから生まれています。

昔のような経済的成長はもう見込めない状況で、僕らが目指すべきことは、もっと文化的に発展していくってことじゃないでしょうか。新しいものができる余地を生み出す「ゆるさ」はというのは、僕らにとって発明の母なのかもしれません。

【澤田】「ゆるい」という言葉の価値をこれほど深く語り合ったことがなかったので、今日は新鮮に感じました。「ゆる」という概念こそ日本の財産だと思うので、どうやって最大限に生かすかは、これからも真剣に考えていきたいです。

(前田はるみ=構成)
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