「ゆるスポーツ」という競技をご存知だろうか。世界ゆるスポーツ協会が提唱する新スポーツで、「年齢・性別・運動神経に関わらず、誰もが楽しめるスポーツ」だという。「ゆるい」とは、若新氏が「ニート株式会社」や「鯖江市役所JK課」などのプロジェクトを通して社会に投げかけているテーマでもある。今回は、ゆるスポーツを発案した澤田智洋氏を迎え、ゆるスポーツにみる「勝負の本質」について語り合った。
「運動音痴」も楽しめるスポーツ
【若新雄純】「ゆるスポーツ」とは、ひとことで言うとどんなスポーツですか。
【澤田智洋】いろんな人が混ざり合って、笑いながらできるスポーツです。「ゆるスポーツ」の条件はいくつかありますが、一番大事にしているのは、プレーヤーも観客も声を出して笑えることです。
【若新】ゆるスポーツのウェブサイト(http://yurusports.com/)を拝見すると、イモムシになり切ってプレーする「イモムシラグビー」や、プレーヤーがゾンビになる「ゾンビサッカー」など、あえて競技の世界においては余計なものが加わっていて、参加する人たちが遊べるようになってますね。なんというか、新しいライフスタイルのようなものを生み出しているという点で、僕の研究テーマである「ゆるいコミュニケーション」に通じるものがあると感じました。そもそも、なぜ「ゆるスポーツ」を始めようと思ったのですか。
【澤田】僕は人生において、「自分はこれが得意だ」というものに出会ったことがないんです。子どもの頃は14年ほど海外で暮らしていましたが、あちらでは勉強は算数や数学以外はついていけないし、スポーツでは歯が立たないし、恋愛でも好きな子は白人に奪われる(笑)。日本に帰ってきたら、今度は帰国子女という扱いを受けて、肩身の狭い思いをしました。いまは広告代理店で働いていますが、優秀な同期に比べて僕はなかなか活躍できなくて、広告をつくる仕事もあまり向いてないんじゃないかと思っています。
自分はマイノリティだという意識がずっと強かったんですね。特にスポーツに関しては、足が遅く肩が弱いので、嫌いでした。今でも苦手です。こんなマイノリティ人生に終止符を打つために、自分がもっとも劣等感を抱くスポーツで何かやってみよう、自分が活躍できるスポーツをつくってしまおう、と思ったのがきっかけです。2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けてスポーツ熱が高まっていることもあり、昨年「世界ゆるスポーツ協会」を立ち上げました。現在、協会には約200人のメンバーがいて、年間50種類ほどのスポーツが生まれています。
【若新】障害者向けのスポーツというのは今では確立してますけど、「運動音痴」向けのスポーツというのは面白いジャンルですね。大人になると、得意でなければ「スポーツやってます」って言いづらいですから。
【澤田】もちろん、障害者が参加できるというのも一つの要素です。たとえば、脳性マヒで左半身が動かない人のために、右半身だけでできるスポーツをつくったりしています。社会課題を解決するためのスポーツという側面もありますが、障害者に限定するとそれはそれでその他の人をシャットアウトしてしまうので、できるだけ排他主義にならないように意識しています。