コミュニケーションにもっとも必要な情報は

Eメールや電子掲示板を通じて生まれた「顔文字」は、特に最近の若者の間では日常的に使われています。また、LINEの「スタンプ」などはそれ以上に馴染みのあるものになりましたが、そのほとんどは天気や食べ物、建物などではなく、人の喜怒哀楽が分かる表情を表現しているものがほとんどです。

日本の顔文字は、世界的に比較すると非常にバリエーションが豊富なようで、ちょっとした独自文化になりつつあるようです。しかし、日常的に顔文字やスタンプを使うことに対して「マナー違反をまねく」「語彙力の低下につながる」と批判する声も聞こえてきます。

でも僕は、顔文字やスタンプを使ったコミュニケーションには、それ以上の大きな意義があると思っています。ここで重要なのは、顔文字や表情を表すスタンプなどは、「言葉の代わり」に使われているのではなく、デジタルのツールでは失われてしまいがちな、人と人とのコミュニケーションに「もっとも必要な情報を補っている」ということです。つまり、メールで顔文字を使うことは、言葉によるコミュニケーションを“さぼって”いるのではなく、コミュニケーションをより“確かなもの”にさせているのです。

「コミュニケーション」とは本来、お互いの「共通認識」をつくることが目的だと言われています。たとえば、誰かが「りんごみたいな色」と言ったら、それを聞いた人のほとんどは「赤色」を想像し、そこでコミュニケーションが成立します。でも、聞き手が「青りんごの色をりんごの色」と想像していたなら、「赤色」は共有されず、おかしなことになってしまいます。

僕たちはこのようにして、コミュニケーションにおける会話の中の言葉などから得られるいくつかの「情報」を自分の中の過去の経験や知識と照らし合わせ、共通の認識をつくることで、お互いの頭の中のイメージや背景をつなげています。あたりまえですが、それをきちんと行うためには、言葉の意味や意図を正確に伝えなければいけません。しかし、それだけではコミュニケーションが“確かなもの”にはならないのです。

人と人とのコミュニケーションに「もっとも必要な情報」、それは「感情の情報」です。