西武王国と堤家の凋落に対する自責の念

セゾングループの総帥・堤清二氏が亡くなって、もう3年になる。西武王国を築いた実業家で政治家でもある父・堤康次郎氏との葛藤、異母弟で西武鉄道グループを率いた義明氏との怨念のドラマは、いくつものすぐれたノンフィクション作品に描かれてきた。それほど、この一族と兄弟は世間の耳目を集めたといっていい。

『堤清二 罪と業』児玉博(著) 文藝春秋

おそらくそれは、1964年に康次郎氏が死に臨んで、後継者に清二氏ではなく、義明氏を指名したことと無関係ではないだろう。西武鉄道、プリンスホテルを継承した弟に対し、兄が受け継いだのは、当時は東京の場末の街・池袋にあった西武百貨店だけだった。そんな仕打ちが、同じ血を引いているにもかかわらず、決して交わることのない骨肉の争いを生んだ。

この作品は、副題に「最後の『告白』」とあるように、著者の児玉氏が、清二氏の死の1年前に行ったインタビューが土台になっている。「季節をまたぎ計7回、のべ十数時間におよんだ」という。そこで話されたのは、強烈なまでの長男としての自負心と屈折した父や義明氏への心情、そして、西武王国と堤家の凋落に対する自責の念である。

振り返ってみれば、清二氏が生きた時代も大きく影響していたと思う。日本が経済成長からバブルに向かうなか、兄弟それぞれの企業グループは目覚ましい発展を遂げる。清二氏の西武百貨店など流通部門は、70年に義明氏がトップとなった西武グループ本体から独立。ファッション専門店を集めた「パルコ」は新しい消費文化を創出し、ホテル、不動産開発など100社以上を傘下に持つセゾングループに成長していく。