ちょっとドキドキすることに挑戦する

テーマは、脳の若さを保つにはどうすればいいか。茂木氏が示す回答はひどくシンプルだ。いわく、大事なのは前頭葉を活性化することであり、鍵を握るのはドーパミンという物質である。そのドーパミンは初めてのこと、ちょっとドキドキするようなことに挑戦するたび、脳内に溢れる。典型的なシチュエーションは「ファーストキス」。「(あのとき)生涯で最大のドーパミンが出たのです」と、氏は断言する。

『「ほら、あれだよ、あれ」がなくなる本』茂木健一郎 羽生善治(著) 徳間書店

年を重ねてもこのメカニズムはちゃんと維持される。にも拘わらず、オヤジの階段を上るほどドーパミンが枯渇し、結果「アレをアレして」式の遠称指示代名詞がつい口をつくようになるのは、年中同じことばかりやっているからだ。毎日まいにち同じ道を歩いて同じ場所に行き、同じ顔ぶれに紛れるという生活には、サプライズというものがない。サプライズのない生活は当然のこと退屈だから、脳としても退屈な映画のように「早送り」したくなる。年とともに年月の流れが加速するように思えてくるのは、脳にサボり癖がついて若い活力を失いつつあることの表れなのである。

今さら「ファーストキス」ってわけにもいかないワレワレとしては、ではどうすればいいか。茂木氏は「いわゆる無茶振りを自分にするのです」と言う。趣味で絵を描いているのならギャラリーを借りて個展を開く。なけなしの英語力を発揮するべく、東京オリンピックのボランティアに名乗り出る。なんでもいいから、思い切ったチャレンジをするとよい。受け身ではなく主体的にそれをやったとき、しかもうまくいけばなおさら、ドーパミンがドパーと分泌して脳は見事に活性化するのだそうだ。