人の幸不幸を決める唯一の条件とは?
茂木氏はいつしか「人の幸せとは何か」を論じ始める。たとえば世間は、独身よりも結婚したほうが、夫婦2人きりより子どもがいたほうが幸せだと決めつけがちだ。金がないよりはあったほうがいいというのも、疑いようのない「常識」だろう。しかし、どちらも正しくないらしい。脳科学者たちが徹底的にデータを集めて検証した結果として、「ある特定の条件が幸せの絶対的な必要条件ではない」ことがわかっているという。つまり、仮に宝くじでウン億円当てようが、幸福度は決してアップしない。
「今のありのままの自分を受け入れるのが大事なのです。-中略-皆さんは今のままで完全に幸福なのです。それに気づくかどうかが大事なのです」
彼はそう言いながら、さらに言う。「ただし、強いて言うなら人との絆-中略-があると、幸せになるということがわかっています」
ちなみにいえば、ドーパミンのスイッチを入れるためのチャレンジに踏み切りやすいのも、「人との絆」に恵まれている人だという。なんだそんなことかと拍子抜けしたかもしれないが、かえって気が重くなった人も少なくないはず。なにしろ金を積もうが土下座しようがおいそれとは手に入らないのが、「人との絆」というものだから。
しかし救いは、おいそれと手に入らないものなるがゆえ、特に今の世の人々の大半はそれに乏しい(たぶん)ことだ。寂しい同士が絆を結び合うのだと思えば、少なくともこれからウン億円貯めるよりは、よほどたやすいはずなのである(たぶん)。
本書は脳科学者・茂木健一郎氏と将棋棋士・羽生善治氏、それぞれの語り下ろしに続いて、最後は2人が対談する3部構成。ど忘れを防ぐためのトレーニング法、UFOに乗れる人と乗れない人の違い(!?)など、ほかにも興味深い話題がいろいろ。羽生氏のパートの印象が今ひとつ薄いのは、「ノウハウ本」として読んだからだろう。本物の天才の逸話はおもしろいが、常人がそれを役立てるのは難しい。