「誰でもどこでも」授業配信という夢

先見性、合理性、決断力、そして難局に直面した際の突破力と撤退力――事業家には、多くの抜きん出た力が必要だ。同時に「夢」を持ち続けなければ、進路はいずれ狭まって、事業は陳腐化する。「人々に、こういうものを提供したい」「世の中を、こう変えてみたい」といった思いを強く持つ。それが、「夢」の始まりだ。

もちろん、夢は、簡単には実現しない。多くの失敗や挫折が、待っている。でも、そこで諦め、捨ててしまえば、もう叶うことはない。「世界のホンダ」を育てた本田宗一郎さんも、常に「夢は、持ち続けていなければ、決して実現することはない」と教えていた。

ナガセ社長 永瀬昭幸

1997年4月、ナガセは通信衛星(CS)を使ったデジタル有料放送で、個人向け授業「東進Dスクール」を始めた。着想の原点に、自らも聴いた大学受験ラジオ講座がある。60年代半ば、故郷の鹿児島で高校へ通ったころ、ラジオ講座は全国の受験生に支持されていた。提供した旺文社は、学習出版界の代表的な存在だった。「東進は、テレビで旺文社のようになりたい」が、目標だった。

当時、衛星放送のデジタル化で多チャンネル時代を迎え、様々な業種から番組提供へ参入した。だが、そんな時代の波に乗ろうとしたのではない。48歳になり、なお、「誰でもどこでも、いい授業を受けられるようにしたい」との夢に、突き動かされていた。

衛星放送で夢を追うのは、初めてではない。前号で触れたフランチャイズ方式で、90年代前半に東進ハイスクールの授業を各地の予備校へ送信した。だが、東京や関西の人気講師の授業を生で中継しても、各地の受講生がその時間に来校できないこともある。そこで、ビデオテープを貸し出すようにした。それでも「誰でもどこでも」には、まだ遠い。