そこで、次には予備校にではなく、受講生の自宅へ直接、番組を提供した。講師陣には、自慢の顔触れがいる。後はいい教材だと思い、教科書会社に頭を下げて回ったが、渋られる。でも、熱心に、意義を説く。夢は、軽く口にしては、泡のごとく消える。本気で語り続けなくては、手は届かない。
やがて、難攻不落かと思われた出版社の女性社長が「それほど言うなら仕方ないわ」と頷いた。ロングセラーの「チャート式数学」(数研出版)も「英文法標準問題精講」(旺文社)も、使用許可が出た。「これなら、成功しないわけはない」と思う。だが、夢は、簡単には実現させてもらえない。当時はCS放送をみるには、受信装置が必要で、かなりの費用となる。そのため受信契約が伸びず、採算割れが続く。でも、諦めず、チャンネル数も4つに増やす。ちょっと、意地にもなっていた。
4、5年たち、累積損失が10億円になったとき、取引銀行の支店長に「頑張りましたね。でも、そろそろ」と言われ、撤退した。この挫折で、学んだ。商品やサービスが相当よくても、必ずしも売れない。手頃の値段で提供できる販売力もないと、いけない。そのことを、胸が痛くなるほど体験した。ただ、夢は手放さない。インターネットの時代に入り、いわゆるビデオオンデマンド方式の授業映像も揃え、「誰でもどこでも、いい授業を」に近づけた。
挑戦と撤退の例は、けっこうある。その都度、何が足りなかったかを省みて、次へ活かしてきた。2010年10月に始めた3歳から12歳を対象とする「東進こども英語塾」も、その一つだ。
98年4月、CSのチャンネルで、国際通信社と提携した英語のニュース番組を始めた。面白いと思ったが、まだグローバル化に備える機運は高まらず、2年9カ月で打ち切った。結局、40代に英語教育の花は、開かない。
そこで、考え直す、日本は長くあらゆる面で外国語を翻訳して取り込み、活かしてきた。だから、読む力は伸ばすが、話す力は乏しいまま。でも、「言葉とは、自分の意見を発表し、相手に伝えるためにある」との発想に立てば、話す力を付けることから入れ、ということではないか。