現場の「誠意」が客の評価を高める

2002年元旦、羽田を飛び立ち、富士山の上を巡ってくる初日の出フライトに同乗した。1日付で就いたレベニューマネジメント部長としての初仕事。無事に済ませ、羽田へ戻ってお客を見送り、ひと息ついた。でも、新職場をじっくり勉強する時間はない。時をおかず、「成人の日の3連休の成田-バンコク便の座席が、大幅に足りない」との連絡が届く。

ANAホールディングス社長 片野坂真哉

今度の部は、国内外の路線の運賃を決め、収入の最大化を図る司令塔。座席不足が大きなトラブルになり客足に響けば、職責に及ぶ。急いで当時は羽田にあった本社へいき、状況を聞く。世界の航空界では、一定数のキャンセルや重複予約を見込み、座席数より多めに予約を受ける慣習がある。でも、このときは違う。フライト自体がなく、営業部隊のたいへんなミス。46歳のときだった。

すぐ、国際航空連合「スターアライアンス」の仲間であるタイ国際航空との共同運航便の空席を、かき集めた。だが、出発前日になっても、80人分が不足。部内は騒然とする。手分けをして、夜通しで他社の空席を探した。でも、なお約40人があふれていた。

1月12日、連休初日の早朝に4人を率いて、成田空港へいく。混雑のなか、座席がないと知ったお客に「せっかく楽しみにしていたのに、何とかしろ」と怒鳴られるたびに「ご予約、ありがとうございます。でも、すみません、その便は飛んでいないので、座席がありません」と、正直に話した。過ちに、言い訳はいけない。両親とも教師の家庭に育ち、そのことは、身に付いていた。

お客は「それなら、他社の振替便を探せ」と迫ってくる。だが、状況を変に繕っても、いけない。「直行便は、無理です。すみませんが、香港経由でお願いできませんか」と、頭を下げ続ける。夜8時過ぎ、ようやく収拾した。