サービス業の価値は、提供する品やサービスの内容だけでは、決まらない。何か過ちがあったときに、どう対応するかも大きい。レストランで「これだ」と思った料理を頼んだのに、違う品が出てきたらどう思うか。腹は立つし、がっかりするに違いない。でも、もし、その後の店の対応が見事で、誠意にあふれていたら、別の気持ちも生まれるかもしれない。「また、来てもいいかな」と。

航空便でも同じ。それを可能にしているのが、現場の対応と誠意だ。過ちは直ちに正さなければいけないが、そういういい点は広げたい。そう、痛感した。以来、現場に迷惑をかけたときは、自ら翌日には赴き、謝るようにした。

前年の9月11日、米国で同時多発テロが起き、航空需要は急減した。日本の航空各社も経営が悪化し、政府系金融機関からの低利融資が決まる。ANAも、社長が「世界のパラダイムが変わった。一から出直しだ」と、非常事態を宣言した。そんななか、テロから2カ月後には日本航空と日本エアシステムの経営統合が報じられ、逆風はさらに強まった。

社長室にいた最後の年で、急きょ、基本戦略構想「新創業宣言」と、その実行策となる「グループ経営改革プラン」をまとめた。社長になったいまも掲げる「お客様満足」と「価値創造」を打ち出したのも、このときだ。策定が終わるころ、レベニューマネジメント部長へ異動した。「次は、収入の担い手になれ」というわけだ。

バンコク便のトラブルの後、まず「超割」と呼ぶ制度を見直す。早期に搭乗便を決めれば、国内どの路線でも一律1万円。発売から2年たち、東京-沖縄でも1万円で、大人気だった。社内には「超割」さえ売れていれば席は埋まるから、ツアーの営業などなくてもいい、との声まで出ていた。

だが、よくみると、回数券など他の割引運賃が、埋没している。座席がある限り「超割」を売り、ツアーを扱っていた面々が売った座席を「超割」用に回収させてもいる。それでは、大事な連携相手の旅行会社などに迷惑をかける。直ちに、廃止を宣言した。改めるのは、早いほうがいい。担当者も長くなり、「過ち」に気づかなくなっていたので、入れ替えた。

「見善則遷、有過則改」(善を見ては則ち遷り、過ちがあれば則ち改む)――正しいことや優れたことをみたら、すぐにそれを実践しようとし、過ちに気づいたらすぐに改める、との意味だ。中国の古典『易経』にある言葉で、善行も改善も敏速にすることが大事、と説く。「これは違う」と気づけば直ちに改め、「これはいい」と思えば全社に根付かせようとする片野坂流は、この教えに通じる。