経済的自立と早期リタイアを目指す“FIRE”にあこがれる人は少なくない。だが、富裕層専門税理士の森田貴子さんは「実際の富裕層でFIREしている人はほとんどいない。資産100億円を持ちながら、あえて数億円規模の借入をして事業を立ち上げる人も珍しくない」という――。
ビルの合間から上を見上げるビジネスパーソン
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本当のお金持ちは、働きまくっている

「もう働かなくても生きていける」。この言葉に、心が動く人は多いのではないでしょうか。

FIRE(Financial Independence, Retire Early=経済的自立と早期リタイア)という考え方が流行し、30代40代での引退を夢見る人も増えています。投資や副業を駆使して「自由な時間」を得ることが、ひとつの成功モデルのように語られてきました。

しかし、私は税理士として30年近く、何千人というお客さまのお金を見てきましたが、完全にFIREしている人に出会ったことはほとんどありません。

理由はとてもシンプルです。

人生にはお金がずっと必要であり、「安泰」という状態は一生来ない。子どもの教育や家族の生活、老後の医療や介護など、守るべきものが増えるほどお金は減り続けるからです。むしろ、お金を持っている人ほど将来に慎重で、「働かなくていいから自由」ではなく、働きながら循環していく生き方のほうが安心だと理解しています。

そして実際に富裕層の世界を見ていると、ここからが本当に面白いのですが――事情はFIREのイメージとはまったく逆なのです。

働かなくても済む=「経済的な幸せ」ではない

富裕層は外から見ているともう働かなくてもいい状態に見えるかもしれませんが、本人たちはそのように考えていません。これまで彼らの領収書を1000万枚見てきましたが、死ぬまで遊んで暮らせる資産を持っているにもかかわらず働くことをやめようとはしないのです。

なぜなら、働くことそのものが「自己表現」であり、「社会とのつながり」だと感じているからです。

仕事とは、社会と関わり、自分の才能を活かして世界に貢献する場。お金はその結果として自然に増えていくものであって、目的ではないのです。

そして、お金がいくらあっても、安心や安泰が自動的に手に入るわけではないということです。人は誰でも心配ごとがあり、状況は常に変わります。