大雪の早朝にみた新入社員の仕事

2000年12月25日の月曜日、クリスマスイブが明け、1年最後の週を迎えて、銀行ATMの利用はピークに達する、と予想された。その朝早く、部下に、札幌市営の地下鉄東西線の沿線にある店舗外ATMの様子を、すべて、観にいかせた。経営管理部の企画第二課長、49歳のときだ。

北洋銀行頭取 石井純二

銀行に対する利用者の評価は、店の配置による便利さ・不便さにも左右されるが、店の内外に置いたATMの使いやすさ・使いにくさが決めるところが大きい。待ち時間が長いと、お客の苛立ちは募り、苦情も増える。行列がATMコーナーの外にまで延びると、降雪や厳寒の冬には待ちきれない。繁閑による利用効率や運営費も考えて、ちょうどいい台数にするのが、難しい。ATMの適切な配置は、「顧客第一」には重要だ。

東西線は、市北西の宮の沢駅から中心部を通り、南東の新さっぽろ駅までの20.1キロ。駅が19あり、支店外にATMを置いていたのは20カ所近く。部下は夕方までかけて、1つ1つの利用状況を観察した。予想通り、すごい数のお客がいた。1人当たりが操作に使った時間、順番を待つ数や待ち時間などを、メモして回る。

同じ混んでいても、場所によって事情は違う。学生街では引き出しだけが多いのか、操作時間が短く、列があってもどんどん動く。商工業地区では、振り込み操作が多いのか、ATMを独占状態にしてしまう例が出る。でも、駅から遠い地点では他にATMもなく、じっと待つしかない。待つ人たちの表情には、不満が浮かぶ。

そんな報告を聞き、「予想通りだな」と思う。北洋に道内の店舗網を譲渡する前の北海道拓殖銀行にいたとき、ATMの新サービスを考えた。その際、「現場」の実態を調べたので、事情はほぼ分かっていた。でも、部下に「現場」へ足を運ばせ、自分の眼で観て、自分の頭で対策を考えさせた。

与えた課題は、道内に約400台あった店舗外ATMの見直しだった。銀行の本部には、毎日、全ATMの利用数が集計される。毎週や毎月のデータも含め、大半は総数と1台当たりの平均値で出てくる。それに従って策を打てば、どうしても画一的になり、個々の実情への配慮が抜ける。