景気の先行きが見えないなか、地方の中小企業における苦悩は深刻さを増している。事態を打開する方法は「顔の見える関係」を利用した「地方版メーンバンクシステム」であると筆者は説く。

明治期における地域経済の最大の特質とは

景気の先行き不透明感を拭い去ることができない状況が続くなかで、地方経済の苦悩は、深刻さを増している。地方経済の活性化なくして日本経済全体の再生がないことは、誰の目にも明らかである。

第一次産業、第二次産業、第三次産業を問わず、地方経済の中心的な担い手となっているのは、中小規模の事業者である。その中小規模事業者が活性化するうえでは、資金調達が順調に行われることが必要不可欠である。したがって、正念場を迎えつつある地域経済再生の鍵を握るのは中小企業金融の円滑化であると言っても、けっして過言ではない。

中小企業金融のあり方について、ほぼ3年前に次のように書いたことがある。

《間接金融が消えたかというとそうではない。大企業の場合は直接金融へのシフトが起きたが、中小企業の場合はまだ間接金融が基本線である。(中略)貸し渋りなどが問題になるのは、中小企業はまだ間接金融にたよっているためだと思う。(中略)

中小企業を対象にしたメーンバンクシステムのようなものを作る必要がある。その場合の主人公は都市銀行でなく地方金融機関でないかと考えている。それは、不良債権が起きてはいけないからである。(中略)貸す前に、きちんと貸すべきところに貸す仕組みを作る必要がある。そうすると、情報の密度や頻度が非常に大切になり、なるべくフェイス・トゥー・フェイスの関係の方が望ましいと言える。大きくてもせいぜい都道府県レベルで、地元の金融機関が地元の中小企業にお金を貸すという仕組みをつくる必要がある」(拙稿「地域経済活性化と雇用創出-Glocali zationの今日的意義-」『生協総研レポートNo.63経済危機とくらしの諸相』、2010年3月、31~32ページ)》

ここで言う「フェイス・トゥー・フェイスの関係」とは、「顔の見える関係」のことである。「顔の見える関係」については、東京大学の中村尚史教授が好著『地方からの産業革命-日本における企業勃興の原動力』(名古屋大学出版会、10年9月)の中で、その重要性を強調している。同書を読むと、明治期の日本における地域経済の最大の特質は「顔の見える関係」にあったことが、よくわかる。