スポーツ界で起こった体罰事件の報道が続く中で、企業においても、部下や後輩などへの叱り方について関心が高まっている。ただ、現実には、職場では“叱る”ことを躊躇する上司が増えているようだ。少々古いデータだが、プレジデント誌が2010年に行った調査では、回答者の4分の1が、職場で叱る行為が減っていると答えている(図1)。
また、プレジデント誌の調査(※)によると、職場に苦手な上司がいると感じる若手の割合は2割にも満たない。本来、上司とは誰にとっても苦手な存在のはずだ。部下が失敗しても叱らない(叱れない?)上司が増えているということなのかもしれない。いずれにしても、叱るという行為は昔に比べれば、難しくなってきた。(※プレジデント誌定期購読者2500人にアンケート調査を実施)
こうした背景には、パワーハラスメントなどについての懸念や叱ることによって部下がついてこなくなるという心配もあるようだ。さらに、最近強調されるようになってきた「褒める」マネジメントの推奨もある。部下を育てるときには、叱ってはいけない、批判的になってはいけない、弱みではなく、強みを強調しなければならない、ということが言われることが多くなってきた。その結果、批判的な要素が含まれる「叱る」という行為は敬遠されるようである。
でも、叱るという行為は、本当に職場で減らしていくことが望まれているのだろうか。いやそもそも「叱る」とはどういうことなのだろうか。
私が専攻する組織行動論の議論では、叱るも褒めるも基本的には、フィードバックによる成長支援である。その人がどういう行動をとっており、それがある基準から見て、どう評価されるかを伝える行為がフィードバックである。その際、いいところ、優れたところを強調するのが「褒める」という行為であり、また悪いところ、直すべきところを強調するのが、「叱る」という行為である。そしてフィードバックという視点から考えると、体罰やそれに準じる強い言葉による指導(「それができないのなら辞めちまえ!」など)は、恐ろしく効果が期待できないフィードバックなのである。