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図2 3割が「仕事のやり方・質」について叱られたとき、やる気が出たと回答/「目標達成できなかったこと」を叱責されたとき、無意味だと感じる人が3割

ちなみに、10年のプレジデント誌調査をみると、結果である目標達成ができなかったことを叱責されたときには多くの人のモチベーションが下がるが、よりプロセスに近い、仕事のやり方や質について叱られたときには、そうでもないことが示されている(図2)。フィードバックという意味では、プロセスに関して叱るほうが効果をもたらすことを示唆する結果である。

第3に、体罰やそれに準じる指導は、そのインパクトゆえに、その人の行動や現状に関する評価としてではなく、その人の自我や人間性そのものに関する評価だと捉えられる可能性があり、受け手に感情的な反発を生みやすい。または、体罰等を受けた人に心理的な抑圧がかかり、萎縮してしまう可能性がある。その結果、その後の受け手と送り手のコミュニケーションが阻害され、成長を妨げてしまうのである。

最近の研究において、コミュニケーションや学習など組織における人間行動は、理性や論理的判断などとは別に、感情に大きく支配されることが注目されている。実務の世界では当たり前かもしれないが、例えば、部下に対する好き嫌いが、評価の公正性に影響を及ぼすなどの場合である。そのため、感情マネジメントという分野が発展してきており、企業の施策や管理者のマネジメントがもつ、働く人の感情に与える影響に関心が集まっている。

そして第4になんと言っても、体罰等は人間として尊重されていないという認識を相手に抱かせやすいという点で大きな問題がある。「尊重されていない」ということはわかりにくい概念だが、単純に言えば、人として大切にされていない、ということである。

確かに現実には、人間として大切にしたうえでの「愛のムチ」という状況もありうるのかもしれないが、それが効果をもつのは、送り手と受け手によほどの信頼関係のある場合に限られ、往々にして、教える側の独りよがりである場合が多い。今回のスポーツ界での事件でも、「私はもっと信頼されていると思っていたのに……」というような言葉が聞かれた。信頼関係が基盤にない叱責や体罰は、相手に「大切にされていない」感を起こし、そうした状況で、学習や成長は起こらない。