欧米諸国、BRICsでも関心の的に
安倍晋三首相が新政権の下で打ち出した経済政策がアベノミクスと呼ばれ、そのアベノミクスを構成する3つの経済政策が「3本の矢」という言葉で表現されている。「3本の矢」とは、毛利元就が3人の息子(毛利隆元と吉川元春と小早川隆景)に対して、1本の矢では簡単に折れるが、3本に束ねると容易には折れないので、3人はともに結束すべしという3本の矢の教えに由来する。安倍首相が自らの経済政策を「3本の矢」と呼ぶ理由には、バラバラではなくて、3つの経済政策をポリシー・ミックスとして連携して実施するということに主眼があるからなのであろう。
安倍首相が打ち出した経済政策は、国内だけではなく、世界金融危機およびユーロ圏危機以降、苦境に立っている欧米諸国、さらには、最近、翳りを示し始めているBRICsなどの新興市場国において関心の的となっている。4月19日のG20財務大臣・中央銀行総裁会議でも話題となった。欧米諸国では、アベノミクスによって日本経済が復活し、世界経済の景気回復の原動力の1つとなることが期待されている。一方、新興国、特にアジアにおいては、アベノミクスの経済的成果の1つである円安によって各国経済に対して悪影響が及ぼされるのではないかと懸念されている。
安倍政権は、デフレ脱却と過度な円高を是正していくことによって、基本方針としている「成長による富の創出」という政策目標を実現しようとしている。この政策目標を実現するために、連携を取りながら「3本の矢」の経済政策を実施していくとしている。第1の矢は「大胆な金融政策」、第2の矢は「機動的な財政政策」、そして、第3の矢は「民間投資を喚起する成長戦略」である。これらの経済政策のうち、すでに、第1の矢と第2の矢の金融・財政政策は実施されている。
第1の矢である「大胆な金融政策」は、白川方明前日銀総裁時代の今年の1月22日に政府と日本銀行が共同声明を発表したところから始まった。その共同声明のなかで、デフレからの早期脱却と物価安定の下での持続的な経済成長の実現に向け、政府および日本銀行の政策連携を強化し、一体となって取り組むことが記された。そして、日本銀行は、物価安定の目標を消費者物価の前年比上昇率で2%とするというインフレ・ターゲッティングを導入することとなった。その後、3月20日に白川前日銀総裁から黒田東彦日銀総裁に交代することによって、2%のインフレ・ターゲッティングの下で「大胆な金融政策」への「レジーム・チェンジ」が決定されることとなった。日本銀行は、マネタリーベースを2倍にして2年程度で2%のインフレ率を達成することを宣言し、大規模な量的・質的金融緩和を明確にコミットした。