安倍内閣は6月、経済政策の基本となる骨太の方針を閣議決定。成長戦略では「1人当たりの国民総所得(GNI)を10年で150万円増加させる」という目標を掲げた。おそらく「給与が増える」という印象を持った人も多かったはずだ。しかし、GNIには大きな割合を占める企業の所得も含まれていて、その伸びがそのまま賃金増につながるわけではない。
この背景を、ニッセイ基礎研究所の櫨(はじ)浩一専務理事は「1960年代、池田勇人内閣が『所得倍増計画』を成功させたように、経済政策にはわかりやすさが必要。その際、所得が増えることは誰しもが望んでおり、言葉の響きも心地いい。加えてGNIには、日本人が海外で得た稼ぎも含まれるから、いまや国内総生産(GDP)を上回り、より実現性の高い目標として選ばれたのだろう」と見ている。
内閣府の発表によると、2012年度の名目GDPが474.7兆円なのに対して、名目GNIは490.1兆円、1人当たりで384万円余りと2年ぶりの増加に転じた。ここをベースに今後10年間で150万円増やすことは、年平均3%強の伸びで可能なのである。
ただ、それでは外需頼みの側面が強くなってしまう。櫨氏は「アベノミクスの成長戦略でも、外国に物を売って儲けようといった考え方が強く、相手国への思いやりに欠けるきらいがある。むしろ、デフレ脱却には国内の産業を育成して内需主導の道を探るべきだ。それが、世界第3位の経済大国の品位だと思う」と話す。そうすれば、雇用も賃金も上向いていくだろう。
(ライヴ・アート=図版作成)