ユーロ圏のソブリン危機を引き起こした要因

筆者は、例年、お正月にアメリカに出かけて、世界中から経済学者が集まるアメリカ経済学会年次総会に参加している。そこでは、経済学の最新動向のほか、現在注目されている経済問題に関して様々な情報を収集し、議論できるので、大変有益な場である。今年もお屠蘇気分をそこそこにして、1月3日から6日にかけ、温暖の地という予想を裏切って寒風の強かったサンディエゴで開催された年次総会に参加した。

ジャン=クロード・トリシェ前欧州中央銀行総裁

多くのセッションの中で、ジャン=クロード・トリシェ前欧州中央銀行(ECB)総裁が登壇した国際政策協調のセッションはきわめて興味深かった。トリシェ前ECB総裁は、ユーロ圏のソブリン危機を引き起こした要因として、財政規律を確保するための安定・成長協定が政治的理由からまったく機能しなかったこと、生産性や単位労働費用の点からユーロ圏諸国の対外不均衡が発生していたこと、銀行が国債に過度に投資していたこと、危機管理のシステムが確立していなかったこと、単一市場において賃金・価格の伸縮性が失われていたこと、そして、構造改革が進んでいなかったことを挙げている。

そのような反省を踏まえて、現在、財政規律の回復を目指した財政安定同盟や危機管理のための欧州安定メカニズムの設立や統一的に金融監督を行う銀行同盟が少しずつ進んでいることを指摘して、経済・金融連邦に向けたユーロ圏の動きを論じた。

もう1つの興味深いテーマの下で行われたセッションがあった。それは、トリシェ前ECB総裁にも深く関連するが、「中央銀行の独立性」というテーマである。今、日本でも日本銀行の金融政策を巡って、政府・国会と日本銀行との間の関係および日本銀行の金融政策の独立性が話題となっている。アメリカでも連邦準備制度理事会(FRB)の金融政策の独立性が関心を呼んでいる。そのセッションでは、スタンフォード大学のジョン・テイラー教授(インフレ率と産出量ギャップ〈長期トレンドからのGDPの乖離〉の二つの経済変数を金融政策の目標としたテイラー・ルールを考案したことで有名な経済学者)などがそれぞれの学問的立場から中央銀行の独立性について発表した。テイラー教授は、金融政策のルールと対比させながら、中央銀行の独立性、とりわけ金融政策の独立性が常に政府・議会から政治的圧力にさらされているので、金融政策のルールを導入すべきであると論じている。