国債累増が国債利回りに悪影響を及ぼす

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図 アベノミクス「3本の矢」はこう作用する

第2の矢である「機動的な財政政策」は、1月に平成24年度補正予算に緊急経済対策を盛り込んで、実施することを閣議決定したところから始まった。その緊急経済対策は、復興・防災(3.8兆円)と成長による富の創出(3.1兆円)と暮らしの安心・地域活性化(3.1兆円)などを含む総額10.3兆円規模となった。平成25年度予算の前倒しを含めた、平成24年度補正予算から平成25年度予算までの15カ月予算として前倒しに財政支出を行う。一方で、緊急経済対策の財源として5.2兆円の追加国債発行で賄われることとなり、一層の国債の累積を認めざるをえなくなった。2%のインフレ率と相まって、国債累増が国債利回りに悪影響を及ぼす可能性は否定できず、国債価格の暴落と国債を大量に保有する金融機関への影響が懸念されている。さらに、財政政策が大量の長期国債の買いオペを含む「大胆な金融政策」と連携することによって、財政規律が一層緩んで、財政当局に対する信認が失墜する可能性を高めるのではないかと心配される。

そして、第3の矢である「民間投資を喚起する成長戦略」について、医療分野など一部でその提言が発表されている。日本経済の長期低迷の1つの理由として、旧態依然とした経済構造のなかで、生産性が上昇せず、日本国内の生産物の国際競争力が低下したことがある。また、円高による産業の空洞化が国内の設備投資を抑制しているだけでなく、日本経済の成長の阻害要因となっている。国際競争力を高めるためには、これ以上の物価引き下げでは企業の利潤マージンを縮小するだけなので、生産性上昇が必要となる。円安も国際競争力に寄与するが、そのような円安政策は国際的な通貨切り下げ競争につながりかねないので、表立っては直接的な経済戦略にはしにくい。法人税の引き下げも含めて、規制緩和による構造改革に頼らざるをえなくなっている。

これらの「3本の矢」の経済政策がどのようにデフレ脱却の目標に寄与するのかを簡単な経済モデルを利用して考えてみよう。その経済モデルは、筆者のMBAの授業でも利用している、生産物市場の需要サイドと供給サイドと貨幣市場から構成される(花輪俊哉・小川英治著『金融経済入門【第2版】』〈東洋経済新報社〉を参照されたい)。

金融政策は貨幣市場に働きかける政策であるが、第1に、金利を通じて貨幣市場から生産物市場に影響を与える。金融緩和政策によって、貨幣市場で金利が低下すれば、その金利低下に反応して、設備投資が増大する。同時に、貯蓄が減少して、その分消費が増加する。一方で、国内金利が外国金利と比較して下落したりすると、為替相場が自国通貨安に変化し、その為替相場の変化が輸出を増大させる。生産物市場の総需要に影響を及ぼすのだ。さらに、金融政策の効果として株価上昇に伴って、家計が保有する資産が増大すると、資産効果によって消費を増加させる。

デフレ脱却とは、生産物の物価の下落を止めるとともに、生産物に対する総需要を増大させて、生産量が増大することを意味する。生産物の物価が下落することは、賃金や給料が下がらなければ、購入できる生産物の量が増加してよさそうに思われる。しかし、生産物の物価が下落するときには、企業が利潤を維持しようとして、あるいは、赤字化しないように、賃金や給料も下落するかもしれない。

さらに悪いことに、物価が将来においても下落することが予想されると、物価が下落してから生産物を購入しようと、買い控えが起こり、生産物の総需要が減少する。このようにデフレ・スパイラルに直面する日本経済には、その成長を実現するという政策目標に対して、デフレ(=物価下落)を止めるという手段、すなわち、インフレ・ターゲッティングという金融政策手段が必要となる。換言すれば、デフレ(=物価下落)脱却それ自体は政策目標ではなく、経済成長を遂げるための政策手段なのである。