差別化だけではなぜ競争に勝てないのか

脱コモディティ化は、現在の国内市場におけるマーケティングの最重要課題のひとつである。コモディティ化とは、類似の製品やサービスが数多く存在するなかで、企業が価格に訴える競争から抜け出せず、利益を捻出できなくなることである。あなたの会社も、同様の問題に直面していないだろうか。

マーケティング論や競争戦略論の教科書をひもとかれたことのある方はご存じだろう。脱コモディティ化の基本は、差別化である。市場に競争がある以上、企業が提供する製品の形態や機能、あるいはサービスの内容に何らかの独自性がなければ――つまり他の商品と差別化されていなければ――買い手が注目する違いは、価格の高低だけになってしまう。そして、価格にもとづく選択にさらされ続ければ、製品やサービスの価格水準は当然ながら低下していき、利益を捻出できなくなる。コモディティ化から抜け出すためには、差別化が不可欠である。

とはいえ、今の日本では、多くの産業において、少なからぬ数の優良マーケティング企業――他社が容易には模倣できない独自の製品技術、生産設備、あるいはノウハウを持つ企業――が、価格に訴える競争から抜け出すことができず、利益水準を低迷させている。熾烈な競争環境では、差別化だけでコモディティ化の圧力をかわすことは難しい。

差別化していたはずなのに、相変わらずコモディティ化に直面する。このような事態を「コモディティ化の再来」と呼ぶことにしよう。要するに、差別化しているのに、価格低下が止まらないという事態である。

「これだから、教科書はあてにならない」と言いたくなるかもしれない。だがよく考えてほしい。差別化は、マーケティングの1つの要素なのであって、他の要素とうまく組み合わされて、はじめて機能するのである。マーケティングに取り組む際には、こうした要素間の関連性を見落としてはならない。では、どのような要素に注目するべきなのだろうか。これもまた基本に戻れば、マーケティングとは、市場創造のために、供給サイドと需要サイドにおける企業活動を連携させる取り組みである。つまり、脱コモディティ化についても、独自技術による差別化という、供給サイドの対応だけでは問題が解決しないのであれば、需要サイドに問題がないかを検討してみるべきである。一橋大学教授の延岡健太郎氏の言葉を借りれば、「ものづくり重視から価値づくり重視への転換」が必要なのである(『価値づくり経営の論理』日本経済新聞出版社)。