マーケティング担当者の悩ましい問題とは
コモディティ化の再来における第2の要因は、「使用シーンの取り違え」である。仮に新たな便益を提供する差別化に成功したとしても、使用シーンの選択を誤ると、その製品やサービスは、コモディティ化の再来に巻き込まれる。東洋水産の「マルちゃん鍋用ラーメン」は、使用シーンを取り違えないことの重要さを示唆する事例である。
「マルちゃん鍋用ラーメン」には、半なま乾燥麺が使用されている。半なま乾燥麺とは、半生状態に乾燥させた中華麺で、東洋水産以外にその量産設備を持つ企業は存在しない。つまり、半なま乾燥麺は、東洋水産にとっての差別化された素材である。
そして半なま乾燥麺は、既存の中華麺にはない、新たな便益を顧客に提供する。通常の生麺タイプの中華麺は、麺と麺がくっつかないようにするために打ち粉を使用している。しかし、半なま乾燥麺は、麺の表面が乾燥しているので、打ち粉を使わずにすむ。そのため調理時には、スープとは別の鍋で麺をゆでて打ち粉を落とす必要がなく、直接スープの鍋に入れることができる。東洋水産は、この半なま乾燥麺を使って、まずは1つの鍋で本格的な生ラーメンがつくれることをうたった商品を発売した。しかしこの商品は、市場におけるコモディティ化の圧力を跳ね返すことができなかった。買い手から見れば、麺を直接スープの鍋に入れることができるという便益の価値は、他の中華麺をもって代えがたいものではなかったのである。台所に鍋やコンロが2つ以上あれば、1つの鍋で調理できなくても、さほどの不便はない。そのためだろう、この商品は、価格を保ちながら販売を伸ばすことができなかった。皆さんなら、どうするだろうか。差別化ではコモディティ化の圧力に抗えないとあきらめてしまうだろうか。
注目したいのは、東洋水産のその後の取り組みである。東洋水産は、半なま乾燥麺を、鍋料理のしめに使う商品に仕立て直した。これが「マルちゃん鍋用ラーメン」である。通常の中華麺だと、鍋料理のしめに使うには、食事の終盤に誰かが台所に立って、麺をゆでて湯切りをしなければならない。しかし、半なま乾燥麺だと、直接鍋に入れることができる。このように使用シーンが異なると、麺を直接スープの鍋に入れることができるという便益の価値は、ほかの中華麺をもって代えがたいものとなる(図2)。