ワクチンを接種するときに、心配になるのが「副反応が出ないかどうか」だ。サイエンスライターの竹内薫さんは「科学者や医者が『100%安全です』と言わないのは、科学の出す結論はつねに『仮説』であり、100%というのはあり得ないからだ」という――。

※本稿は、竹内薫『フェイクニュース時代の科学リテラシー超入門』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)の一部を再編集したものです。

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科学は常にくつがえる可能性がある

科学とは何かを語るうえで、「反証可能性」という哲学的なキーワードを紹介しましょう。

これはカール・ポパーという人が提唱した概念で、科学と、科学でないものを区別する基準を示しています。

ポパーの提唱した内容はこうです。

科学はつねに反証可能である。
それに対して、科学以外のものは反証が可能とは限らない。

科学においては「ある実験をした結果、ある理論が否定された、つまり反証が挙げられた」がつねに可能ということです。絶対に反証できない理論があったとしたら、それは科学ではないんです。

現代では、ほとんどの科学者がこの考え方に則って科学に取り組んでいます。

「100%正しい理論」なんて存在しない

誰でも知っているニュートン力学や、アインシュタインの一般相対性理論についても、当然ながら反証可能性はあります。少し前にも、素粒子の「標準理論」という現代科学の根底にある理論に対して、必ずしも正しくないのではないかと主張する論文が出ています。

理論上、「正しくないかもしれない」という可能性から始まって、「じゃあ実験してみよう」という人が出てきて、実験をした結果、もし反証ができるのであれば、その理論はくつがえされます。基準としては明確ですね。

つまり、反証可能性があるということは、100%正しい理論、絶対的な真実というものは原則として存在せず、科学の出す結論はつねに「仮説」であると言えるのです。

ちなみに、過去にはポパーの提唱する反証可能性に異を唱えた人もいました。科学哲学者の、ポール・ファイヤアーベントです。もともとは天文学や数学、音楽などを学んでいましたが、のちに科学哲学に転向し、科学に対してアナーキズムを提唱しました。

ざっくりいうと、科学はつねに反証可能性があるなんてことはなくて、もっとアナーキーなもの、何でもありなんだと言ったんですね。ただ、彼はものすごくおもしろい哲学者ですが、主流の考え方ではありません。